2012年6月30日土曜日

第15回國學専修労働判例研究会について

昨日は標記研究会に出席しました。同研究会は専修大の小宮文人教授、國學院大の本久洋一教授が主宰されており、最新労働判例研究を目的とするものです。今回は本久教授が神戸刑務所事件(神戸地判平成24.1.18労旬1766-65)、戸谷准教授がケーメックス事件(東京地判平成23.8.31 労判1038-68)をご報告。

 神戸刑務所事件は、国による偽装請負と団体交渉拒否に対する損害賠償請求が争われた事案です。偽装請負は認定された一方、損害賠償請求は否定。その一方、労働組合の団交権侵害に対する損害賠償請求は認容されています。

 ケーメックス事件は、賞与請求権と労働組合との団交不調が問題となった事案です。同社は以前から賞与決定を一方的に行っていたところ(従業員への賞与額通知・同意済)、新たに結成された多数労働組合との確認書取り交わし不調を理由に、賞与不支給とした事の可否、および誠実団交義務違反等に対する損害賠償請求が問題となっています。判決では前者について賞与支払いを命じる一方、後者の請求を否定しました。
 中小零細企業などで、外部労組支援の下、新たに労働組合が結成された後、同種労使紛争は生じる可能性があるようにも思われ、実務的にも興味深い事案です。

 いずれも大変勉強になりました。個人的には偽装請負状況下における発注者(派遣先)の法的責任を整理できた点が有意義でした。改正派遣法の施行によって、さらに同種法的紛争が多発する可能性を感じます。予防策含め、検討を進めておきたい問題です。

2012年6月29日金曜日

海外労働法制の把握の難しさーイタリア労働市場法改正をめぐる報道等から

平成24年6月27日、イタリア議会で労働市場法改正案が成立した旨、報じられています(時事通信配信はこちら

伊、解雇規制を緩和=構造改革と成長両立へ―労働市場法成立
時事通信 6月28日(木)6時27分配信

 【ジュネーブ時事】イタリアのモンティ政権が構造改革による成長戦略の柱と位置付ける労働市場改革法が27日、下院で賛成393、反対74で可決、成立した。上院では5月末に承認済み。企業の解雇が事実上できない現行法を改め、労働市場の活性化と投資促進を狙う。
 欧州連合(EU)首脳会議の直前に懸案の改革が一歩前進したことで、モンティ首相の面目が保たれた形。ただ、法案審議で骨抜きにされた部分も多く、首相の求心力低下が懸念されている。
 焦点は業績悪化を理由とした正社員の解雇を認めない「労働憲章法18条」の改正。企業は事実上、倒産しない限り解雇ができず、企業競争力低下や国外からの投資の阻害要因とされ、産業界が撤廃を訴えていた。 


上記記事だけを見ると、イタリアは整理解雇含めて「解雇事由規制の緩和に乗り出した」と読めなくもありません。

この点について、以前から正確な情報を発信されておられるのが、神戸大学の大内伸哉教授です。愛読している先生のブログ(アモーレと労働法)において、すでにイタリア労働法改正動向が紹介されています。

ミラノ到着(こちら
ゼロは複数?(こちら
再び労働者憲章法18条(こちら
第71会神戸労働法研究会(こちら

今回改正された労働者憲章法18条は、「解雇事由規制」そのものではなく(別に規定あり)、違法な解雇に対する救済(原職復帰)が定められた条文であること。また同条は広範囲な中小事業主に係る適用除外規定が設けられており、大半のイタリアにおける雇い主には適用がなかった点などが紹介されており、大変勉強になります。

日本の労働法制についても、なかなか諸外国(そして国内でも?)で正確に理解されていない点があるようにも思われます。イタリアの法改正報道等を通じて、改めて海外労働法制の理解の難しさを感じた次第。

【追記】法学教室6月号に大内先生が「法律家の使命?ー最近のイタリアにおける解雇法制改革の報道をめぐって」を寄稿されておられるとのこと(ブログ記事はこちら)。ぜひ拝読したいと思います。

2012年6月28日木曜日

政治休職制度と解雇(今朝のニュースから)

社会保障と税の一体改革関連法案が衆院通過しました(パート社保適用拡大法案も含む)が、国会はしばらく空転する可能性が高いとのこと。空転期間中も国会関連の人件費その他コストがかかっており、その額は本当に馬鹿になりません。「花いちもんめ」をお楽しみ中の先生方につきましては、「ノーワーク・ノーペイ」の原則に立ち戻り、「国会議員」としての歳費を無給にできないものでしょうかね(※なお現行法(こちら)では、国会議員である限り歳費が支給されることになっております、念のため)。顧問先様の製造工場における企業努力を見るにつけ、その思いを強める今日この頃。

 ところで今朝のasahi.comに次の記事が掲載されていました(こちら)。

「サラリーマン議員「クビは不当」 元勤務先パソナを提訴」

 「サラリーマン議員」として会社の休職制度を利用しながら議員活動を続けていた東京都の浜田浩樹・渋谷区議(34)が、2期目に入ったところで解雇されたのは不当だとして、人材派遣会社パソナ(東京都)に解雇の無効と200万円の慰謝料を求めて提訴した。27日に東京地裁で第1回口頭弁論があり、パソナ側は争う姿勢を示した。

 訴状によると、浜田区議は2001年にパソナに入社。07年4月に初当選し、政治活動のために休職できる制度を使い、パソナからの給料は受け取らずに議員を務めていた。だが11年4月、2期目に当選すると、会社から「休暇制度は最長4年間」として退職を促され、断ると同年12月に解雇を通告された。

 浜田区議は「休職に期限があるとは事前に聞いていなかった。延長が無理なら復職して議員活動と両立すると伝えたが、断られた」と話している。一方、パソナ広報室は「外部での経験を会社に持ち帰り、生かしてもらうための制度。1998年の開始時から『原則として最長4年間』と決まっていた」としている。(高野遼)

 政治休職制度も「休職制度」つまりは労働義務を一定期間免除する制度であることから、通常は「期間」が定まっているものと思われます(なお同社の広報案内はこちら)。 同社の就業規則に休職制度とその「期間(4年)」が規定されており、かつイントラネット等で「周知」がされていた場合は、法的に有効といえそうです(労働契約法7条)。とすれば、同区議は2011年4月には休職期間が満了しているため、就労義務が生じることになります。

 記事によれば、区議は「延長が無理なら議員活動と両立する旨申し出たが断られた」と主張されているようですが、そもそも区議と従業員の両立が一般に可能でしょうか。区議会が平日夜・土日祝日開会であればとも思いましたが、残念ながら渋谷区議会はそのような運営ではないようです(こちら)。年休取得による対応もこの会期日程では難しそうですね。そのような中、区議会を理由に出社していないとすれば、会社として普通解雇が可能か否か。
 
 法的には以上の点が争点になろうかと思いますが、人事労務上の観点からは、労使双方ともにコミュニケーションが足りない感を受けます。お互い事前に休職・復職あるいは再出馬等に関する連絡を取り合っていれば、このような紛争は通常、未然防止できるでしょうね(コミュニケーションを取れない別の深刻な原因がある場合もありますが・・・)。
 いずれにしましても判決が示された場合は、改めて検討してみたい事案です。

 

2012年6月26日火曜日

パート等社会保険適用拡大法案の衆院採決

本日(平成24年6月26日)、衆議院本会議で社会保障と税の一体改革関連8法案が採決される予定です。消費税率の引き上げと与党議員の造反数がもっぱら注目を浴びていますが、企業人事からみて重要な影響を受ける法案として、「公的年金制度の財政基盤および最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律案」があります。同法案には、パート等の社会保険適用拡大案が盛り込まれているものです。

パートの社会保険適用拡大案は自公民協議による修正を経て、以下の内容で本会議に提出されることになりました。
①1週間の所定労働時間が20時間以上であること
②当該事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれること
③報酬について、標準報酬月額が8万8千円以上であること(修正)
④高等学校の生徒、大学の学生等でないこと

 また当分の間、常時500人以下の通常の労働者およびこれに準ずる者を使用する中小事業主には上記適用拡大は行わないこととしています。以前、本ブログでこの問題を取り上げました(こちら)が、法案を見る限り、「事業場」でみるのではなく、当該企業全体(事業主)で労働者数を見ることになるものです。

 同法案の施行時期は2016年10月1日とされ(修正)、施行後の拡大等については「施行3年以内に検討を加え、その結果に基づき、必要な措置を講じる」(修正)こととしています。

 本国会において同法案が成立した場合、500人超企業(社保適用対象)では、4年後の秋から短時間労働者に対する厚生年金・健康保険の適用拡大が義務付けられることとなります。

 衆院厚生労働委員会において審議入りした労働契約法案への対応も含めて、中堅以上の企業では、有期・短時間労働者の雇用管理のあり方を再考すべき時を迎えています。
今後は顧問先様等の各社から具体的な対応に係るご相談が増えてきそうですね。

2012年6月23日土曜日

衛生委員会の重要性

「衛生委員会」の重要性を再認識させられるニュースです。労働安全衛生法・労働安全衛生規則等で非常に詳細な安全・衛生基準が設けられていますが、この基準はあくまで「過去の知見(災害事例等)」を基に作られたものです。新たな職場の安全と健康への脅威には、何よりも職場内での早期発見・対応が必要。同発見・対応の中心となるべき組織こそが「衛生委員会(もしくは安全衛生委員会)」に他なりません。実効性ある衛生委員会活動を行っていきたいところです。


<胆管がん>多発の印刷会社 予防の衛生委員会設置せず

毎日新聞 6月22日(金)15時0分配信(こちら

大阪市内の印刷会社で従業員らに胆管がんが多発している問題で、労働者の意見を反映して職業性疾病を予防する「衛生委員会」などを同社が設置していないことが22日分かった。労働安全衛生法で設置が義務付けられており、厚生労働省は違法として先月30日に是正勧告した。同社では10年以上前から複数の従業員が、社内で使われていた有機溶剤が体調悪化の原因と疑い、換気の改善も訴えており、衛生委員会が設置されていれば、発症を早期に把握できていた可能性がある。

 労働安全衛生法によると、業種を問わず、労働者が50人以上の事業所は、健康に異常のある人の発見や措置、病気による死亡を調べて記録などをする「衛生管理者」を置く義務がある。さらに、労使一緒に健康障害を防止するため、「衛生委員会」を設置し、月1回開催して職場環境の維持・向上に努めなければならない。

 問題の印刷会社は従業員が50人以上おり、衛生管理者や衛生委員会を設置しなければならない。厚労省によると、同社は衛生管理者も設置していなかった。同社の勤務経験者によると、90年代、体調を崩した従業員が「有機溶剤が原因ではないか」と会社側に訴えたが、否定され、叱責を受けた。職場は有機溶剤特有のにおいが漂い、吐き気などを訴える従業員がいた。別の関係者によると、別の従業員が上司らに換気の改善を2回求めたが、反映されなかった。「職場環境の改善が見込めない」として退職する人もいたという。厚労省もこうした証言を把握している模様だ。

 同社では10人が胆管がんを発症し、うち2人は在職中に死亡した。問題は今年3月末、遺族らが労災申請したことで発覚した。大阪労働局は一般論と断った上で「衛生委員会があれば、在職死亡は当然、報告され、議題になる」と説明している。

 印刷会社の代理人の弁護士は、換気改善の訴えがあったことについて「事実か確認できていない」と話した。【大島秀利】

2012年6月21日木曜日

改正パート労働法案の動向



本日、労働政策審議会の建議(今後のパートタイム労働政策)が出ました(こちら)。厚労省は同建議を受けて、改正パート労働法の法案要綱の取りまとめを本格化する予定です。

ところで長期間の国会空転・社会保障と税の一体改革特別委員会党の開催のため、衆院厚生労働委員会における労働関連法案の審議が遅れに遅れています。派遣法は成立しましたが、改正労働契約法案は趣旨説明の段階に留まり、その他高年法、労働安全衛生法改正案は審議入りしていない段階です。そのため国会の大幅延長が決定されたといえども、改正パート法案の国会提出は次の国会(特別会?)か、若しくは来年の通常国会になる可能性があります。

同報告書を見た印象で言いますと、中身自体はさほど大きなインパクトがなさそうですが、9条2項の削除がどのような意味を持つのか考えあぐねているところ。

2012年6月13日水曜日

パートの社会保険適用拡大の動向

社会保障と税の一体改革関連法案をめぐり、民主・自民・公明の修正協議が活発化しているようです。自民・公明は一体改革法案の修正協議を15日で打ち切る旨、宣言しており、いよいよ残りわずか3日。その中で地味ながら、人事労務に大きなインパクトを与える改正法案が標記のパート社会保険適用拡大案です。
 これについて、一昨日の報道(こちら)では、自民党が反対、公明党が賛成する考えを示したとの事。「一体改革」法案であるため、公明がこの部分に賛成したからといって、同法案成立の目処がついたとは到底いえない情勢ですが、注目すべき動きとはいえるでしょう。

2012年6月5日火曜日

グループ企業内派遣規制の動向(改正派遣法)

本年4月に成立した改正派遣法において、地味ながら注目すべき改正点としてグループ企業内派遣規制の問題があります。

 大手企業が派遣会社を子会社として設立し、同社が大手企業のグループ企業各社に労働者派遣を行うことがよく見られた訳ですが、今回の改正法はこれを規制することとしました。

 派遣元に対して、グループ企業への派遣割合を8割以下とすることが義務付けられるものです。問題はここでいう「グループ企業」ですが、先日の厚労省労働政策審議会労働需給調整部会で示された資料によれば、次のとおりとされています(案段階 詳細はこちら またこちらも参照)。

 建議段階 グループ企業を「親会社及び連結子会社」

政省令案
 ①連結決算を導入している場合
 ア)親会社等 派遣元事業主が連結子会社である場合の当該派遣元事業主の親会社等
 イ)親会社の子会社等 親会社等の連結子会社

 ②連結決算を導入していない場合
 ア)親会社等 派遣元事業主の議決権の過半数を所有している者
        資本金の過半数を出資している者
        これらと同等以上の支配力を有する者
 イ)親会社等の子会社等
        派遣元事業主の親会社等が議決権の過半数を所有している者
        資本金の過半数を出資している者
        これらと同等以上の支配力を有する者

また8割以下か否かの計算方法については、次の省令案が示されています。

 派遣労働者の関係派遣先での派遣就業に係る総労働時間ー定年退職者の関係派遣先での派遣就業に係る総労働時間 ÷ 派遣労働者の全ての派遣就業に係る総労働時間

 なお定年退職者の範囲は「60歳以上の定年退職者」とすることとしています。改正高年法案との関係においても、大変注目すべき省令事項と思われます。

 今後、改正派遣法の政省令内容および通達が注目されます。