2014年5月16日金曜日

「雇用改革の真実」(大内伸哉、日本経済新聞出版社)の書評

 大内伸哉先生の新著「雇用改革の真実」(こちら)を一読しましたので、その備忘録を。

 本書は解雇、限定正社員、無期転換制度、派遣法、政府による賃上げ要請、ホワイトカラーエグゼンプション、育児休業制度、定年延長など最近の雇用政策上のトピックスを取り上げ、労働法学者の視点から政策の当否等を解説するものです。

 本書の大きな特徴として指摘できるのは、以下の問題意識に基づく雇用政策の再評価にあります。

 大内先生がまず一例として挙げるのが労働契約法における無期転換制度の導入です。一般に当該制度の導入は、本来、無期雇用で働くべき労働者が使用者による濫用的な有期雇用の利用によって著しい不利益を受けていたものを、立法によって是正させたと評価する向きがあります。

 これに対し、大内先生は有期雇用の多くは、企業側から見ると経済合理性に基づくもの(景気変動の調整弁としての利用を一例として挙げます)であり、「無期転換制度」による法の介入は、結果として「無期雇用が増えるのではなく、無期転換が起こらないように短期に雇用を打ち切るという企業の行動を誘発する危険がある」、「一見、労働者の保護のためになりそうな政策が逆効果となるおそれがある」とするものです。

 企業の経済合理性に基づく行動を直視しつつ、「その中で、いかにして労働者が幸福に職業キャリアをまっとうできるかを考えていくことこそが、真の意味での労働者の保護」になるという立場から、雇用政策の再評価を行っているのが本書の大きな特徴といえます。

 本文中の各雇用政策をめぐる評価は極めて刺激的であり、いずれも労働法制に係る議論再活性化を促すものです(時に「劇薬」にすぎると感じる面もありますが。特に第7章の「育児休業」)。

 個人的には第3章「有期雇用を規制しても正社員が増えない」における「無期転換申込権の放棄」をめぐる議論に共鳴しました。賃金債権放棄に係る判例法理などを紹介の上、無期転換申込権の放棄も「労働者に不利な同意だからといって無効と決めつけず、それが真に自由な意思による同意であることを厳格なチェックの上で確認できれば、有効とする解釈の方が望ましいと言えないだろうか」とするものです。問題はこの「厳格なチェック」の中身と思われ、この点についての精査が重要と考えています。

 思うに最近の裁判例(例えば、定額残業代をめぐるもの)等を見ると、労使による合意を重視(むしろ軽視?)しないものが一部見られ、違和感を感じていました。労使自治の重要性を強調される大内先生の一連の関連文献を改めて読み進めたいと思うところです。

 

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