2013年8月15日木曜日

新制度「プロフェッショナル労働制」(仮称)と労働政策決定過程の雑感

 日経新聞朝刊1面(8月14日)で、政府が新制度「プロフェッショナル労働制」(仮称)の創設を進めていることが報じられました(こちら)。

「政府は1日8時間、週40時間が上限となっている労働時間の規定に当てはまらない職種を新たにつくる方針だ。大企業で年収が800万円を超えるような課長級以上の社員が、仕事の繁閑に応じて柔軟な働き方をできるようにして、成果を出しやすくする。新たな勤務制度を2014年度から一部の企業に認める調整を始め、トヨタ自動車や三菱重工業などに導入を打診した。」
 「労働基準法は時間外労働への残業代の支払いのほか、休日や深夜労働に伴う割増賃金の支給を企業に義務づけている。この労働時間の規定を、いわゆるホワイトカラーの一部に適用しない「ホワイトカラー・エグゼンプション」を企業が実験的に採用できるようにする。秋の臨時国会に提出予定の産業競争力強化法案に制度変更を可能とする仕組みを盛り込む。」(同記事)


 お盆休みの中、突如降って湧いてきた感のある記事です。秋から労働政策審議会がスタートし、裁量労働制、フレックスタイム制の見直しを検討する予定ですが、1年程度審議の上で、法案提出も順調に進んで再来年1月以降になると考えておりました。これが、同記事によると、秋の臨時国会で提出される産業競争力強化法案で「プロフェッショナル労働制」を先んじて立法措置を行うとの事。

 同記事をどのように理解したら良いのか、かなり混乱しましたが、日経新聞記事で産業競争力強化法案の概要が書かれています(7月31日付け(こちら))。

「政府が成長戦略を実現するための具体策を盛り込んだ「産業競争力強化法案」の概要がわかった。国の法改正に先駆けて企業単位で規制を緩和できる「企業特区」制度の新設などが柱。政府は詳細を固めた上で、今秋に召集予定の臨時国会に同法案を提出する。(以下略)」「政府は産業競争力強化法により規制緩和を進めやすくした上で、各省庁に個別産業向けの支援策を追加するよう促す。秋の臨時国会では、電力システム改革を目指す電事法改正案や、再生医療の普及を目指す薬事法改正案を競争力強化法案と同時に提出し、6月に決定した成長戦略の肉づけを目指す。」

 同記事によれば、経産省主導で「企業特区」制度を設けるとしても、具体的な規制緩和自体は「各省庁に個別産業向けの支援策を追加するよう促す」立場に留まるように読めます。とすれば、厚労省は産業競争力強化法案の成立後、「企業特区」に対し、労基法の労働時間規制緩和を「促される」立場になるのやもしれません。

 この場合、法制面で「企業特区」のみに労基法の規制緩和を行いうるのか、また法技術的にどのような手法によるのか等、課題が山積しているように思われます。また労基法の改正を行う場合、労働政策審議会における審議が必須であるところ、本件は労働者側代表が大きく反発することが予想されます。同反発を無視して、急ぎ足で秋の臨時国会内で改正労基法案の提出を急げば、労政審のボイコット、大々的な反対運動も想定され、「通常ルート」での法案提出・成立自体は極めて困難と思われます。

 ただ先の日経記事で気になるのは「秋の臨時国会に提出予定の産業競争力強化法案に制度変更を可能とする仕組みを盛り込む。」と報じている点です。日経記者の筆の誤りの可能性も否定できませんが、もし同記事のリーク元であろう経産省自体が「プロフェッショナル労働制」創設を労基法改正によることなく、産業競争力強化法案のみで進められると考えているとすれば、労働政策決定過程上、大問題となります。これは労基法改正の場合、必ず通るべき労働政策決定過程(公労使の3者構成)そのものを大きく変じうるものであり、労働団体はもちろん厚労省(労働系)の組織を挙げた反発も必至でしょう。賢明な使用者団体も、選挙結果によって逆の立場になることをありうることから、軽はずみに3者構成による政策決定過程を反故にすべきでないと理解しているものと思われます。

 なお濱口桂一郎先生のHPに3者構成による労働政策決定過程の意義等が論じられた座談会記事が掲載されています(「労働政策決定過程の変容と労働法の未来」季刊労働法222号(こちら))。花見忠先生、山口浩一郎先生と濱口桂一郎先生が同問題を鼎談しており、大変勉強になるものです。ご参考までに。

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