2013年10月18日金曜日

国家戦略特区における雇用規制緩和について

 本日(10月18日)、政府は日本経済再生本部会合において、国家戦略特区における具体的な規制緩和内容を決定しました。ここ数日、新聞報道で報じられていた「雇用規制」に係る緩和案についても、官邸HPで「検討方針」が示されています(こちら)。

雇用面での規制緩和としては、まず総論で以下の方針が示されています。
「特区内で、新規開業直後の企業及びグローバル企業等が、優秀な人材を確保し、従業員が意欲と能力を発揮できるよう、以下の規制改革を認めるとともに、臨時国会に提出する特区関連法案の中に必要な規定を盛り込む。 」

 項目としては(1)労働条件の明確化、(2)有期雇用の特例の2点が挙げられています。

まず(1)労働条件の明確化は、元々は国家戦略特区における「解雇権濫用法理の適用除外」等が想定されていたようですが、以下の内容に落ち着いています。

・ 新規開業直後の企業及びグローバル企業等が、我が国の雇用 ルールを的確に理解し、予見可能性を高めることにより、紛争を生じることなく事業展開することが容易となるよう、「雇用労働相談センター(仮称)」を設置する。 
・ また、裁判例の分析・類型化による「雇用ガイドライン」を活用し、個別労働関係紛争の未然防止、予見可能性の向上を図る。 
・ 本センターは、特区毎に設置する統合推進本部の下に置くものとし、本センターでは、新規開業直後の企業及びグローバル企業の投資判断等に資するため、企業からの要請に応じ、雇用管理や労働契約事項が上記ガイドラインに沿っているかどうかなど、具体的
事例に即した相談、助言サービスを事前段階から実施する。 
・ 以上の趣旨を、臨時国会に提出する特区関連法案の中に盛り込む。 

 若干のコメントとして、雇用労働相談センターは「厚労省」ではなく、「特区の統合推進本部」の下に置くとした点は興味深いところです。問題は誰がどのように担うかでしょう。
 また同センターが「事前段階」から雇用管理等について具体的事例に即した相談、助言サービスを行うことと明記されていますが、同相談・助言内容が法的な「お墨付き」となるのか(多分ならないでしょう)。実際に訴訟案件が生じ、同センターの助言に従った会社側が敗訴に至った場合、法的責任は生じうるのかどうか(当然に責任回避する方向で制度設計されると思いますが・・)。色々と煮詰めるべき問題が多いようにも思います。

次の(2)有期雇用の特例については、次の方針が示されています。

 例えば、これからオリンピックまでのプロジェクトを実施する企業が、7年間限定で更新する代わりに無期転換権を発生させることなく高い待遇を提示し優秀な人材を集めることは、現行制度上はできない。 
・ したがって、新規開業直後の企業やグローバル企業をはじめとする企業等の中で重要かつ時限的な事業に従事している有期労働者であって、「高度な専門的知識等を有している者」で「比較的高収入を得ている者」などを対象に、無期転換申込権発生までの期間の在り方、その際に労働契約が適切に行われるための必要な措置等について、全国規模の規制改革として労働政策審議会において早急に検討を行い、その結果を踏まえ、平成26年通常国会に所要の法案を提出する。 
・ 以上の趣旨を、臨時国会に提出する特区関連法案の中に盛り込む。 

 若干のコメントですが、やはり労働契約法の改正については、厚労省に戻して、労政審経由で法案を仕上げろとのお達し。厚労省労働基準局労働条件政策課、ご苦労様です。水面下で調整できているのであればともかく、いきなり官邸から降ってきた感のある政策マターといえそうですので、連合の反応が大変注目されます。

 いずれにしてもこの改正労働契約法案(そもそも来年の通常国会に閣法提出されるのかどうか疑わしいですが)が無事成立したとしても、「重要かつ時限的な事業」「高度な専門的知識」「比較的高収入」などを対象とした延長措置(5年から10年)に留まるため、企業実務への影響は小さいものといえそうです。

2013年8月15日木曜日

新制度「プロフェッショナル労働制」(仮称)と労働政策決定過程の雑感

 日経新聞朝刊1面(8月14日)で、政府が新制度「プロフェッショナル労働制」(仮称)の創設を進めていることが報じられました(こちら)。

「政府は1日8時間、週40時間が上限となっている労働時間の規定に当てはまらない職種を新たにつくる方針だ。大企業で年収が800万円を超えるような課長級以上の社員が、仕事の繁閑に応じて柔軟な働き方をできるようにして、成果を出しやすくする。新たな勤務制度を2014年度から一部の企業に認める調整を始め、トヨタ自動車や三菱重工業などに導入を打診した。」
 「労働基準法は時間外労働への残業代の支払いのほか、休日や深夜労働に伴う割増賃金の支給を企業に義務づけている。この労働時間の規定を、いわゆるホワイトカラーの一部に適用しない「ホワイトカラー・エグゼンプション」を企業が実験的に採用できるようにする。秋の臨時国会に提出予定の産業競争力強化法案に制度変更を可能とする仕組みを盛り込む。」(同記事)


 お盆休みの中、突如降って湧いてきた感のある記事です。秋から労働政策審議会がスタートし、裁量労働制、フレックスタイム制の見直しを検討する予定ですが、1年程度審議の上で、法案提出も順調に進んで再来年1月以降になると考えておりました。これが、同記事によると、秋の臨時国会で提出される産業競争力強化法案で「プロフェッショナル労働制」を先んじて立法措置を行うとの事。

 同記事をどのように理解したら良いのか、かなり混乱しましたが、日経新聞記事で産業競争力強化法案の概要が書かれています(7月31日付け(こちら))。

「政府が成長戦略を実現するための具体策を盛り込んだ「産業競争力強化法案」の概要がわかった。国の法改正に先駆けて企業単位で規制を緩和できる「企業特区」制度の新設などが柱。政府は詳細を固めた上で、今秋に召集予定の臨時国会に同法案を提出する。(以下略)」「政府は産業競争力強化法により規制緩和を進めやすくした上で、各省庁に個別産業向けの支援策を追加するよう促す。秋の臨時国会では、電力システム改革を目指す電事法改正案や、再生医療の普及を目指す薬事法改正案を競争力強化法案と同時に提出し、6月に決定した成長戦略の肉づけを目指す。」

 同記事によれば、経産省主導で「企業特区」制度を設けるとしても、具体的な規制緩和自体は「各省庁に個別産業向けの支援策を追加するよう促す」立場に留まるように読めます。とすれば、厚労省は産業競争力強化法案の成立後、「企業特区」に対し、労基法の労働時間規制緩和を「促される」立場になるのやもしれません。

 この場合、法制面で「企業特区」のみに労基法の規制緩和を行いうるのか、また法技術的にどのような手法によるのか等、課題が山積しているように思われます。また労基法の改正を行う場合、労働政策審議会における審議が必須であるところ、本件は労働者側代表が大きく反発することが予想されます。同反発を無視して、急ぎ足で秋の臨時国会内で改正労基法案の提出を急げば、労政審のボイコット、大々的な反対運動も想定され、「通常ルート」での法案提出・成立自体は極めて困難と思われます。

 ただ先の日経記事で気になるのは「秋の臨時国会に提出予定の産業競争力強化法案に制度変更を可能とする仕組みを盛り込む。」と報じている点です。日経記者の筆の誤りの可能性も否定できませんが、もし同記事のリーク元であろう経産省自体が「プロフェッショナル労働制」創設を労基法改正によることなく、産業競争力強化法案のみで進められると考えているとすれば、労働政策決定過程上、大問題となります。これは労基法改正の場合、必ず通るべき労働政策決定過程(公労使の3者構成)そのものを大きく変じうるものであり、労働団体はもちろん厚労省(労働系)の組織を挙げた反発も必至でしょう。賢明な使用者団体も、選挙結果によって逆の立場になることをありうることから、軽はずみに3者構成による政策決定過程を反故にすべきでないと理解しているものと思われます。

 なお濱口桂一郎先生のHPに3者構成による労働政策決定過程の意義等が論じられた座談会記事が掲載されています(「労働政策決定過程の変容と労働法の未来」季刊労働法222号(こちら))。花見忠先生、山口浩一郎先生と濱口桂一郎先生が同問題を鼎談しており、大変勉強になるものです。ご参考までに。

2013年8月8日木曜日

ブラック企業集中取り締まりについて

 厚労省は8月8日、来月9月をブラック企業の集中取り締まりを行う旨、発表しました。読売新聞ニュースでは以下のとおり報じています(こちら)。

 「企業名公表」のタイトルに少々驚かされましたが、読売新聞報によれば送検事例のプレス発表を意味するようです。とすれば、同公表自体は従前どおりの対応といえます。また長時間労働、サービス残業などの情報および過重労働等による労災が発生した事業場に対し、臨検監督を行うこと自体も従前から行われており、さほど新規性はありません。
 
 今回の集中取り締まりの特徴は、何よりも「離職率の高い事業場」をピックアップして行う点にあります。離職率情報の入手をどのようにして行うのか記事上不明ですが、ハローワーク経由で情報収集するということでしょうか。そのようなやり取りを行うとすれば、職安と労基の連携という面でも注目すべきところです。ただ離職率は会社におけるセンシティブ情報にあたるため、当該情報を職安、労基署が如何なる根拠で活用しうるのか。法制面の整備を含め、確認しておきたい点です。

 いずれにしても全国4000社を大々的に集中取り締まりするとの報は、各マスコミともに好意的に報じており、労働基準行政のPRという面では今のところ十分に効果があったといえそうです。問題は実際の取り締まりが意義あるものとなるか否かですが、9月の各指導内容が注目されます。

ブラック企業集中取り締まり…立ち入り、公表も

読売新聞 8月8日(木)13時30分配信
 厚生労働省は8日、若者に極端な長時間労働を強いるなどする、いわゆる「ブラック企業」への集中取り締まりを実施すると発表した。

 若手社員の離職率が極端に高かったり、過重労働が続いていたりする疑いのある全国約4000社に対し、9月の1か月間に立ち入り調査する。悪質な労働基準法違反などが確認されれば書類送検し、社名を公表する。

 対象は、平均的な離職率を上回っている企業など。同省によると、大卒の3年以内の離職率は平均で28・8%で、業種や企業の規模も参考にする。サービス残業や労使の合意を超える残業が横行しているとの相談がある企業や、過去に労災を起こした企業も含める。

 実態把握のため、9月1日には無料の電話相談(0120・794・713)を実施する。時間は午前9時から午後5時まで。

 

2013年7月29日月曜日

拙書の書評・ご紹介について

 労政時報の人事ポータルサイト「jin-jour」に拙書「精神障害の労災認定と企業の実務対応」の書評が掲載されました(こちら)。拙書の内容と狙いを大変的確にご紹介頂いており、筆者としても嬉しく思いました。ぜひご覧いただければ幸いです。

 また濱口桂一郎先生の著名ブログ(こちら)におきましても、拙書をご紹介いただきました。感謝申し上げる次第です。

2013年7月13日土曜日

amazonでの販売開始(新著)

 新著がamazonでも販売開始されました(こちら)。ぜひ、こちらもご利用いただければ幸いです。

2013年7月12日金曜日

紀伊国屋書店webでの新著販売開始

 新著「精神障害の労災認定と企業の実務対応」が紀伊国屋書店web(こちら)で販売が開始されたようです。個人的にも同サイトはポイントが貯まり、一定額以上であれば送料無料になる点が有り難く、大変お世話になっています。本著も送料は無料との事。

 ぜひお買い求めいただければ幸いです。

2013年7月5日金曜日

「精神障害の労災認定と実務対応」チラシのご案内

拙書発行元の日本リーダーズ協会様から、チラシを送付いただきました(こちら)。ぜひご覧いただければ幸いです。なお、このチラシで書籍の注文も可能です。書店に並ぶ前にご希望の方はぜひご利用ください。

2013年7月3日水曜日

「精神障害の労災認定と企業の実務対応」発刊について

 拙書「精神障害の労災認定と企業の実務対応」が発刊されることになり、初めて完成品を手に致しました。6冊目の本(共著、編集協力含む)になりますが、やはり新著が刷り上がると嬉しいものです(笑)。特に本書は一貫して研究・実践を重ねてきた労災認定・労働安全衛生問題に関する最初の著書であり、感慨深いものがあります。同著の発刊に際しては、発行元の日本リーダーズ協会様、特に編集担当頂いた石川様には並々ならぬご支援を頂きました。改めて感謝申し上げる次第です。
 本が書店の店頭、アマゾン等に並ぶのは1〜2週間後だと思いますが、まずは取り急ぎ発刊のご案内させて頂きます。

 拙書紹介は以下のとおりです。

「精神障害の労災認定と企業の実務対応」(日本リーダーズ協会) 定価1900円(税別)


「本書は、精神障害の労災認定問題を取り上げ、認定基準の実際とメンタル不調の予防策、労災申請後の企業対応まで幅広く解説するものです。同労災認定基準は極めて複雑・難解ですが、本書の特徴としては、まず「慢性的な長時間労働」、「急激な仕事量の増加」、「配転」、「新規事業の担当」、「パワハラ」など豊富事例紹介を行い、労災認定基準の実際と予防対策を簡潔明瞭に解説する点にあります。また企業の視点から、労災補償給付申請書における会社証明欄への対応、労基署調査対応などの実践的な解説を行っています。精神障害の労災認定件数が急増(平成24年度前年比150件増)する中、ぜひ本書をご参考にしていただければ幸いです。」