2012年7月14日土曜日

【労働判例】大阪労働局長事件(労災処理経過簿の情報公開請求)

第16回國学専修大労働判例研究会において、大阪労働局長事件(大阪地判平成23.11.10 労経速2131-3)を報告させていただきました。

 事案としては、原告が大阪労働局長に対し、情報公開法に基づき、大阪労働局管内における脳心臓疾患等に係る労災補償申請・決定処分の処理状況を記した処理経過簿のうち、「事業場名」記載部分を開示するよう求めたところ、不開示決定処分がなされた点が争われたものです(行政取消訴訟)。
 この処理経過簿は、いわゆる「過労死事案」に係る労災事案について、労働局が各労基署の事務処理の進捗状況を把握し、連携を図るべく、局監察官が作成していたものであり、事業場名のほか、認定要件、評価期間、平均時間外労働時間数なども一覧表に記載されています。

 処分庁は不開示理由として、当該事業場名を明らかにすれば、他の情報と照合して、「被災労働者名」など個人情報が識別される恐れがあること等を挙げていました。

 これに対し大阪地裁判決は、原告の請求を認容し、事業場名の不開示決定処分の取消を認めました。同訴訟において、処分庁側は先の理由のほか、当該情報は「法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある」、さらに「行政事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」などの主張を行いましたが、いずれも判決では斥けられています。

 同判決の中で注目されるのが、法人等情報に係る判示部分です。判決でも脳心臓疾患等による労災事案を発生させた事業場名が開示されることは、当該労災が長時間の勤務がその一因と思われるものが少なくないことからすると、「そのこと自体から当該事業場について一定の社会的評価の低下が生じる可能性は否定できない」と一定の理解を示します。しかしながら、他方で労災補償制度は「その支給決定に当たって使用者に労働基準法等の法令違反があったか否かを問題とするものではない」ことからすると、この社会的な評価の低下は「多分に推測を含んだ不確かなものにすぎ」ず、法人の正当な利益を害するおそれを認めるに足りる的確な証拠はないと結論づけたものです。

 研究会では、同判断の規範的評価とそのあてはめについて、議論がなされました。過去の先例として、36協定の情報公開が争われた大阪地判平成17.3.17がありますが、概ね同様の判断を示しているといえます。しかしながら、企業側からみると、当該開示による様々な実際上の「法人等の利益を害するおそれ」も指摘しうるところであり、報告者として当該判断を首肯すべきか、なお検討の余地があるようにも思いました。

 処分庁側は同地裁判決を不服とし、控訴しており、控訴審判決が待たれるところです。

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