2012年7月26日木曜日

無期転換制度をめぐる政府見解(衆院厚労委員会質疑)

昨日(7月25日)、改正労働契約法案が衆院厚生労働委員会で可決されましたが、同委員会における無期転換制度に係る質疑のうち、注目すべき政府見解を備忘録的に控えておきます。委員会質疑をメモしたものを自分なりに整理したものにすぎませんので、正確な議事内容については、近日中にUPされる衆院HPをご確認ください。
→以下は筆者のコメントです。

1 モデル労働条件通知書について

Q 無期転換制度に係る周知をどうするか
A(政府)パンフレットおよび「モデル労働条件通知書」による周知を検討

→モデル労働条件通知書が法施行前に示される予定 その中に無期転換に係る記述あり。内容は不明。

2 無期転換権の事前放棄について

Q 無期転換の権利発生前、使用者が労働者に当該権利を事前放棄させることは許されるか?

A 使用者側が権利発生前に一方的に事前放棄させることは法の趣旨を没却させるもので、公序良俗に反し無効になる可能性。

→放棄に係る同意が明確に認定される場合も同様か不明。

3 偽装請負等と無期転換について

Q 実態は変わらないが、偽装請負、派遣などに形式上偽装し、無期転換制度を免れようとする動きが想定されるが、このような対応は許されるのか?

A 法の趣旨目的を損なうものであり許されず。同ケースについては、偽装期間も含めて「同一の事業主」とし通算規定のカウントを行い、無期転換制度の対象となる。

→法人格の形骸・濫用にあたるケースに限定されるものとすれば異論はないが、派遣元・請負会社が権利主体として認められる場合、上記解釈を取ることは法文上無理がある(上記見解はあくまで法人格の形骸・濫用にあたるケースを指したものと捉えるべきか?)。

4 無期転換の権利発生時期について

Q 無期転換の権利は有期契約を5年超更新した場合に生じ、当該権利行使を当該有期契約の期間満了時までとしている。ある労働者が5年超の段階では当該権利を行使しなかったが、次期契約更新がなされた後(6年超)、無期転換の権利を行使することは可能か?

A 無期転換の権利は、有期契約が5年超となると更新の都度、発生する。5年超段階で行使しない場合も、次期更新(6年超)があれば、また更新時に新たな無期転換の権利が発生する。

→ この点は疑義がありましたので、同質疑によって政府見解は明らかになったものです。法文の作りからも同見解は首肯できるように思われます。

2012年7月25日水曜日

改正労働契約法案の衆院委員会採決

本日(平成24年7月25日)の衆院厚生労働委員会において、改正労働契約法案が可決されました。次本会議において衆院通過し、参議院に送付される予定です。

改正労働契約法案には、5年超の無期転換制度、雇い止め法理の明文化、均衡処遇規定などが盛り込まれています。

同法案ですが、実務対応上も様々な問題を抱えているように思われます。

例えば5年超の無期転換制度については、例外事由が何ら設けられておりません。この点については、少なくとも60歳以上の高齢社員、登録型派遣社員など他の労働関連法令との整合性からみて適用除外とする余地があるようにも思われますが、何ら当該配慮がなされていません。

衆院厚生労働委員会における実質審議は短く、改正労働契約法に伴う法的問題を十分に検討したものとは思われません。参議院において十分に審議され、必要に応じて法案修正などがなされることが望まれます(望み薄ですが・・・)。

なお本日、改正高年法が衆院厚生労働委員会において審議入りしました。

2012年7月14日土曜日

【労働判例】大阪労働局長事件(労災処理経過簿の情報公開請求)

第16回國学専修大労働判例研究会において、大阪労働局長事件(大阪地判平成23.11.10 労経速2131-3)を報告させていただきました。

 事案としては、原告が大阪労働局長に対し、情報公開法に基づき、大阪労働局管内における脳心臓疾患等に係る労災補償申請・決定処分の処理状況を記した処理経過簿のうち、「事業場名」記載部分を開示するよう求めたところ、不開示決定処分がなされた点が争われたものです(行政取消訴訟)。
 この処理経過簿は、いわゆる「過労死事案」に係る労災事案について、労働局が各労基署の事務処理の進捗状況を把握し、連携を図るべく、局監察官が作成していたものであり、事業場名のほか、認定要件、評価期間、平均時間外労働時間数なども一覧表に記載されています。

 処分庁は不開示理由として、当該事業場名を明らかにすれば、他の情報と照合して、「被災労働者名」など個人情報が識別される恐れがあること等を挙げていました。

 これに対し大阪地裁判決は、原告の請求を認容し、事業場名の不開示決定処分の取消を認めました。同訴訟において、処分庁側は先の理由のほか、当該情報は「法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある」、さらに「行政事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」などの主張を行いましたが、いずれも判決では斥けられています。

 同判決の中で注目されるのが、法人等情報に係る判示部分です。判決でも脳心臓疾患等による労災事案を発生させた事業場名が開示されることは、当該労災が長時間の勤務がその一因と思われるものが少なくないことからすると、「そのこと自体から当該事業場について一定の社会的評価の低下が生じる可能性は否定できない」と一定の理解を示します。しかしながら、他方で労災補償制度は「その支給決定に当たって使用者に労働基準法等の法令違反があったか否かを問題とするものではない」ことからすると、この社会的な評価の低下は「多分に推測を含んだ不確かなものにすぎ」ず、法人の正当な利益を害するおそれを認めるに足りる的確な証拠はないと結論づけたものです。

 研究会では、同判断の規範的評価とそのあてはめについて、議論がなされました。過去の先例として、36協定の情報公開が争われた大阪地判平成17.3.17がありますが、概ね同様の判断を示しているといえます。しかしながら、企業側からみると、当該開示による様々な実際上の「法人等の利益を害するおそれ」も指摘しうるところであり、報告者として当該判断を首肯すべきか、なお検討の余地があるようにも思いました。

 処分庁側は同地裁判決を不服とし、控訴しており、控訴審判決が待たれるところです。

2012年7月12日木曜日

胆管がん問題と国の規制(1,2-ジクロロプロパン)

 昨日のブログでは主に「ジクロロメタン」に対する法規制(MSDS等)を取り上げましたが、今回の胆管がん問題で悩ましいのが1,2-ジクロロプロパンです(MSDSの一例としてこちら)。同シートのとおり、ジクロロメタン(有機則等の適用)に比べて、同物質自体に対する法規制は手薄です。

 厚労省も同化学物質の危険性を軽視していた訳ではなく、がん原性検査(検討過程はこちら)の上で、平成23年10月に「1,2-ジクロロプロパンによる健康障害を防止するための指針」(見やすいものとして、さしあたりこちら)が策定されたところでした。

 今後、専門家調査によって「1-2-ジクロロプロパンと胆管がんとの間の因果関係」が明確に認められた場合、国側の規制不備・遅れに対し、行政権限不行使に係る国家賠償責任が問われる可能性はありそうです。とはいえ、前述のとおり国側もがん原性検査の上、一定の規制を指針レベルで行っていた経緯もあり、全くの不作為ともいえません。同問題が争われた場合、当時の科学技術の水準に照らして、当該行政規制が「遅れた」「不備」であったといえるのか否かが法的に問われることになろうかと思います。

2012年7月11日水曜日

胆管がんと化学物質の危険有害性の表示等

厚労省が印刷会社における胆管がんに関する一斉点検結果を発表しています(こちら)。

現時点で肝胆がんの起因物の可能性があるとされているのが、ジクロロメタンと1,2-ジクロロプロパンです。ジクロロメタンはすでに有機溶剤予防規則において、事業主に対し厳しい法規制が定められていますが、朝日新聞記事(こちら)を見る限り、中には法軽視もはなはだしい事業場があるようです。

印刷所8割、規則違反 局所排気、責任者知らず
 8割近い印刷事業所でルール違反――。厚労省の調査で、働く人の健康を守るための「有機溶剤中毒予防規則」(有機則)に違反した事業所が広がっている実態が浮かび上がった。

 「局所排気? 聞いたことがない。換気扇で足りると思う」。大阪府内の校正印刷会社に20年勤める現場責任者は話した。有機則は、有機溶剤を吸い込んで屋外へ排出する「局所排気装置」の設置を義務づけているが、この現場責任者は知らなかったという。

 問題発覚まで同社は、胆管がん発症との因果関係が疑われている有機溶剤のジクロロメタン80%の洗浄剤を使用。局所排気などの設置が必要だが、「五つある換気扇で十分」と考えていたという。

 同じように義務づけられた空気濃度の測定もしたことがなかった。有機溶剤を取り扱う労働者には半年ごとに特別な健康診断を行う必要があるが、一般的な健診を「各自で任意でやっている」という。

 校正印刷に携わる別の府内の印刷会社も「今回の問題が発覚して初めて規則を知った」。労働基準監督署の調査を受けたこともなく、規則に関する講習を受けたこともないという。

 日本印刷産業連合会(東京)は1980年代から90年代にかけて、手引書「印刷と有機溶剤」を作り、業界内で啓発してきた(略)。


 しかし、業界に浸透しなかった。連合会の担当者は「業界の末端まで伝わらなかった面がある。印刷業界は零細企業が多く、健康が後回しになっていたのかもしれない」(以下略)。


 この記事だけを見ると、中小零細印刷業者が「ジクロロメタン」等の危険性を認知していなかったとしても、労基署の指導や連合会の周知啓発活動が足りなかったためであり、致し方ないようにも読めますが、果たしてそうでしょうか。以下法規制内容が極めて重要です。

 平成4年7月1日から施行されている「化学物質等の危険有害性等の表示に関する指針」(安衛法57条の2)において、すでに「ジクロロメタン」を提供した業者等が、ユーザー企業に対して「化学物質等安全データシート」(MSDS)を交付することが義務付けられています。

 ジクロロメタンに関するMSDS(こちら)をみると、p8以下に有機則を含めた法規制内容が記載されていますし、人体への影響も明記されています。またMSDSは事業場に掲示することも合わせて求められます。今回、問題となった印刷会社に対しても、購入時に当該文書が交付されている可能性が高く、MSDSが交付されている限り、当該事業主の「法の不知」「危険性の不知」は認められないものと考えます。

2012年7月10日火曜日

胆管がん問題と労災法における消滅時効


印刷会社における胆管がん問題をめぐる新聞報道を見ていて、気になっていたのが、労災法における時効の問題です。毎日jpなどでは、次のとおり報じています(こちら)。

胆管がん:印刷会社の発症者3人 労災認定が時効に
毎日新聞 2012年06月21日 15時00分

 大阪市内の印刷会社で従業員や退職者計10人が胆管がんを発症した問題で、発症者のうち3人は死後5年を経過しており労災認定の時効となっていることが分かった。時効は、一定期間内に権利を行使しなかった被害者に請求権を認めない規定だが、今回の問題では、印刷会社で胆管がんが発症しやすいことは厚生労働省も確認していなかった。支援者からは、時効となった発症者も補償対象にすべきだとの声が上がっている。

 労働者災害補償保険法では、労災申請の請求期間は死後5年までと規定している。

 今回の胆管がんの発症者10人は、療養中が5人、死亡5人。ほとんどの患者は入社時から約10〜20年の潜伏期間を経て発症し、療養者4人と死者2人の遺族が労働基準監督署に労災認定(補償)を求めている。

 しかし、4人が労災認定を未申請で、このうち3人は00〜06年に死亡した。熊谷信二・産業医科大学准教授の調査研究で今年5月、胆管がん多発が発覚した時点では既に死後5年以上が経過し、同法の規定で時効になっていた(以下略)


 確かに労災法42条では、療養補償給付、休業補償給付等を受ける権利は、2年を経過したとき、障害補償給付、遺族補償給付等を受ける権利は、5年を経過したときは、時効によって消滅すると定められています。
当該時効の起算日については、保険給付の支給事由が生じた日とされており、遺族補償給付であれば、労働者が死亡した日が起算日となります。

以上の整理を前提とすれば、5年前に胆がんによって亡くなられた労働者の遺族による遺族補償給付請求権が時効消滅することになりそうですが、裁判例・学説は時効の起算日について、異なる見解を取り得ることを示唆しているように思われます。

山口浩一郎上智大学名誉教授の名著「労災補償の諸問題(増補版)」(信山社,2008)に掲載されている論文「労災保険における保険給付請求権の消滅時効」(同書p389)を見ると、最近の判例傾向として、「現実行使期待可能説」の立場が紹介されています(アマゾンはこちら)。

これは権利行使に法律上の障害がなく、かつ権利の性質上その権利行使を現実に期待できる時点をもって時効の起算日とする考え方です(例えば大垣労基所長事件 名古屋高判平成3.4.24 労民集42-2-335。その他詳細は同書p399注7参照)。

山口先生は同立場を支持し、「原則的にはやはり支給決定請求権の消滅時効の起算日は民法166条1項に従い、権利行使が可能となった日すなわち支給事由発生の日とし、通常人を基準として、事実上権利行使が可能でなく妥当でない結果が生じるときは、例外的に現実に行使が可能になった日とすべきであろう」とされます。

山口先生がご執筆された時点では想定されていなかったと思いますが、まさに本件事案は「通常人を基準として、事実上権利行使が可能でなく妥当でない結果を生じるとき」に該当するように思われます。とすれば、現行法制上も時効消滅していないとの判断を取り得る(行政段階でも)し、アスベスト問題と同様に特別法を制定し、救済しても良いでしょう。いずれにしても本申請については、厚労省も上記いずれかの対応を講じるように思われます。

余談ですが、院生時代に恩師の故倉田聡先生から、「本当に良い論文かどうかは、時間が証明する」との教えを受けたことがありました。山口先生の上記論文集はそのお手本ともいえるものです。

【追記】さきほど時事ドットコムで続報を目にしました(こちら)。

原因判明時で検討=労災認定の時効起算点-印刷会社の胆管がん・厚労省
 大阪市の校正印刷会社の元従業員らが相次いで胆管がんを発症した問題で、厚生労働省は10日までに、労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づく遺族補償給付の時効(5年)の起算点を通常用いられる元従業員らの死亡翌日ではなく、業務との因果関係が分かり、請求できるようになった時点とする方向で検討を始めた。
 死亡翌日を起算点とすると時効を過ぎる遺族が複数いるためで、業務と胆管がん発症の因果関係の蓋然(がいぜん)性が高いと判断されれば労災認定される見通しだ。ただ、因果関係に関する研究は始まったばかりで、予断を許さない。(2012/07/10-21:57)

 当然の判断かと。

2012年7月9日月曜日

【労働判例】郵便事業(期間雇用社員・雇止め)事件等

先日、出席した筑大労働判例研究会(江口教授、川田教授主宰)において、以下裁判例が検討されました。
郵便事業(期間雇用社員・雇止め)事件 広島高判岡山支部平成23.2.17労判1026-94。
澤路会員が的確なご報告をされ、大変勉強になりました

 事案としては、日本郵政公社時代から、配達業務(バイク)に従事していた非常勤職員が、郵政民営化後、初回の有期契約が締結されるものの、初回契約満了をもって更新されなかった点が争われたものです(雇い止め無効)。郵便事業側は公社時代も含め、同人の交通事故歴を雇い止めの理由の一つに挙げていました。

 原審は公社時代と民営化後の関係を明確に分けた上で、民営化後の雇用契約関係は初回をもって終了したことから、更新期待は認められず、雇い止め法理は適用されないとしました。その上で他の規定等に照らしても、交通事故歴などから契約更新しなかったことが違法とはいえないと結論づけます。

 これに対し控訴審判決は公社時代と同人が同じ業務・処遇であること、また契約更新歴が合わせて13回(4年10ヶ月あまり)にものぼることなどを指摘し、「公社およびYの業務にとって常時不可欠の存在であり、しかもその任用ないし雇用継続は強く期待されていたということができる」とします。その上で雇い止め法理の適用があるとし、解雇権濫用法理の類推適用から、本件雇い止めは違法と結論づけたものです。

 研究会では、同控訴審も公社時代の任用関係においては、明確に雇い止め法理の適用を排斥する一方、何故、民営化後に公社時代の実績も含めて「雇用継続の期待」が認定されるのか。本件雇い止め法理適用の理由付けを中心に議論が盛り上がりました。

 近年、社会保険庁、保育園その他公共部門の民営化が進められる中、同種の法的紛争が多発する可能性があるところ、本判決は先例としての意義があります。今後の裁判例の動向にも注目しておきたいと思いました。

 もう1本の報告は、生活保護開始申請却下取消訴訟等請求事件(東京地判平成23.11.8賃金と社会保障1553/1554-63頁)で、院生の吉田さんがご報告されました。生活保護制度が注目されている中、大変、興味深い事案でした。生存権とご本人の意思の尊重、社会的コスト。難しい問題です。

2012年7月6日金曜日

改正派遣法政省令案の了承

昨日(6月5日)の厚労省労働政策審議会で本年10月1日から一部施行される改正派遣法の政省令案が了承されました(毎日新聞newsはこちら)。

改正派遣法:日雇い禁止例外、年収500万円以上
毎日新聞 2012年07月05日 19時50分(最終更新 07月05日 20時19分)

 3月に成立した改正労働者派遣法で、原則禁止となる「日雇い派遣」(雇用期間30日以下)に関し、例外として認める対象を「世帯収入が年500万円以上」とすることなどを盛り込んだ政省令案が5日、厚生労働相の諮問機関・労働政策審議会で了承された。

 改正派遣法は10月施行。政省令案ではそのほか、60歳以上や昼間は通学している学生の日雇い派遣を可能とすることや、派遣法で「専門業務」と定める26業務のうち、ソフトウエア開発や機械設計などの17業務と受付・案内業務の一部への派遣を例外として認めることも明示された。

 日雇い派遣は「ワーキングプア」の温床になっていると指摘され、禁止が求められてきた一方で、「多様な働き方を阻害する」との声もあり、審議会で詳細が議論されてきた。【市川明代】

 厚労省HPに、同日の審議会資料がすでにUPされています(こちら)。このうち政省令案をコンパクトにまとめているのが、この資料です(こちら)。グループ派遣規制の詳細についてはp3に、日雇い派遣規制はp1以下に示されています。分科会ではこの2点が相当紛糾したようですが、厚労省が押し切った感がありますね。

 なお同日の審議会では、雇用調整助成金の見直しも合わせて示されています(こちら)。同見直しも大変、重要です。

2012年7月5日木曜日

厚生年金基金の代行割れと解散問題(有識者報告書)

厚生労働省がAIJ投資顧問事件を受けて、再発防止対策等を検討するために参集した「厚生年金等の資産運用・財政運営に関する有識者会議報告書」が先月29日にまとまっています(研究会資料はこちら)。

 同報告書を読んで改めて衝撃を受けたのが、基金(総合型)の代行割れ(保有資産が最低責任準備金に満たない状況)が平成22年末時点で全体の約4割にも及んでいるとの記述です。代行割れの基金が解散しようにも、母体企業が不足分を納付しなければならない上、特例で認められた分割納付中に一部の企業が倒産すると、不足分債務が残った事業所に連帯責任が求められることになります(兵庫県乗用自動車厚生年金基金の事例が報じられた日経記事はこちら)。

 同問題に対し、今回の報告書では次の提言がなされています(p12)。

○代行部分の積立不足は母体企業が責任をもって負担することが前提であるが、一方で中小企業の連鎖倒産等による地域経済・雇用への影響、さらに基金を構成する企業が全て倒産した場合には結果的には厚生年金保険本体の財政へ影響を与えることなどを踏まえれば、問題を先延ばしせず早急に制度的な対応を行う必要がある。


○具体的には、モラルハザードの防止に留意し、厚生年金保険の被保険者の納得が十分に得られる仕組みであることを前提に、基金の自主的な努力を支援するとの観点から、特例解散における現行の納付額の特例措置や連帯債務の仕組みを見直すことを検討すべきである。この場合、連帯債務の問題については、解散後も国と基金との間の債権・債務関係が続く現在の仕組みを見直して、解散時に各事業所の債務が確定できるようにすることを検討すべきである。(以下略)。


 解散における納付額の特例措置(分割納付等)や連帯債務の仕組みの見直しが提言されていますが、具体的な中身までは踏み込んでいません。日経報道によれば、この中身として、以下のものが想定されているようです(こちら)。

財政悪化に苦しむ基金に限って、解散を促す。解散するときに国に返還が義務づけられている積立金は減額し、加入企業の負担を減らす。厚労相が解散命令を機動的に発動することも検討する。
 積み立て不足を連帯して返済する制度は廃止する。いまは仮に基金の加入企業1社が倒産しても、その分は残った企業がかぶる仕組みで、返還金の支払いに耐えきれず、連鎖倒産を誘発するおそれがあった。ただ、返還金を減額した分や倒産企業の積み立て不足分は、厚生年金財政で穴埋めする形になり、企業やサラリーマン全体に影響が及ぶ。

 来年の通常国会提出に向けて、今後、厚労省は細部を詰めていくとの事ですが、厚生年金本体の財政に影響を及ぼす問題でもあり、なかなか調整は難航しそうです。AIJ問題が発端になりましたが、以前から同問題に頭を抱えている中小企業が多く、大変な難題だと感じていました。法改正の動向を注視する要があります。

 なお本問題について、的確な解説を行ったブログとして、森本紀行氏によるものがあります。とくにコラム「厚生年金基金の相互扶助原理」は大変有益でした(こちら)。

2012年7月2日月曜日

日雇い派遣規制と労務管理代行(改正派遣法対応)

改正派遣法が一部施行される平成24年10月1日が近づいてきました。同施行の詳細を知るためには改正政省令・通達等を確認する要があるところ、ようやく今週7月5日の労働政策審議会答申を経て、今月中に派遣法政省令、関連通達が発出される目処がついてきたようです。先週の労働政策審議会需給調整部会において示された最終案はこちら

日雇い派遣規制などをみると、思いの外、規制が厳しいようにも思われます(例えば、専業主婦(夫)についても世帯年収500万円以上でなければ日雇い派遣規制の適用除外を認めない等)。

今朝の日経をみると、早速、派遣会社が職業紹介およびその他労務管理代行サービスへの転換を強化する例などが報じられています(こちら)。労務管理代行のメニューとして

労働条件通知書の発行や年末調整など直接雇用に伴う煩雑な事務手続きの代行

などが挙げられています。

たしかに直接雇用に伴う煩雑な事務手続きが予想されますが、何よりもユーザー側が注意しなければならないことは、代行業者が直接雇用に伴う法的責任を「代行」してくれる訳ではない点です。ユーザー企業も法的リスクを十分に検討した上で、派遣法改正への対応を検討する要がありそうですね。

2012年7月1日日曜日

教室で学ぶワークルール(旬報社)

恩師道幸哲也先生から「教室で学ぶワークルール」(旬報社)を贈呈頂きました。いつも誠にありがとうございます(出版社の同著案内はこちら)。

 同著は高校生を主な対象に「できれば教室で、授業とディぺートのために使ってほしいと思います。外部の講師と先生とがコラボの授業をし、それをふまえて生徒が討論することになればすてきな試みであると考えます(同著6p「はじめに」)」とされています。

 この本で大きな特徴と思われるのが、「第3部のワークルールを生かす」。大変具体的かつ分かりやすく労働法の生かし方を解説されておられます。その中でも特に「権利意識を持つ」とともに「日々の生活を見直す」「一緒に行動する仕組み」を強調されておられる箇所(p106~108 例えば以下)は、ぜひご一読いただきたい部分です。

「日頃のつきあいなしに、必要なときにだけ他人に頼り、利用することは許されません。日ごろの行いは結局自分に返ってきます。」 等

 企業人事の立場からみても、上記部分は最近のメンタル問題対応の観点から重要な示唆が与えられる点と思われます。


 最近、各地の社労士会が、地元の小中高生向けに出前授業を行う機会が増えていますが、本著がそのような機会に活用されれば良いですね。