2012年8月3日金曜日

改正労働契約法の成立(有期雇用法制)

本日(8月3日)の参議院本会議で改正労働契約法が可決成立しました。同法案については、以前から拙ブログで継続して取り上げてきましたが、政府原案どおり成立したものです。

 現時点では施行期日は定まっていないようですが、来年4月1日が有力視されているとの事。施行時点において、無期転換制度はただちに適用事案が生じませんが、改正法の中ではさしあたり均衡処遇に係る規定、モデル労働条件通知書の変更などが実務対応上、留意すべき事項になりそうです。

 また無期転換制度を睨んで、今後は企業の有期雇用の活用に見直しが生じる可能性もありそうです。パート社保適用拡大、高年法改正などの改正動向と合わせて、今後の対応策を検討していく要があります。

拙ブログ関連記事
 無期転換制度をめぐる政府見解(こちら
 改正労働契約法案の衆院採決(こちら
 改正労働契約法案の答申遅延の理由(こちら
 有期労働契約の利用可能期間規制案について(こちら
 有期雇用法制の動向(こちら

2012年8月1日水曜日

改正高年法の修正案に対する懸念(衆院厚労委員会採決)

本日(8月1日)、衆院厚生労働委員会で改正高年法案が修正の上、即日採決され、本会議に送付されました(道新ニュースはこちら)。

高年齢者雇用法案、成立へ 65歳まで希望者全員

衆院厚生労働委員会は1日、60歳で定年に達した社員のうち希望者全員の65歳までの雇用確保を企業に義務付ける高年齢者雇用安定法改正案を民主、自民、公明3党などの賛成多数で可決した。2日の衆院本会議で可決後に参院へ送付される。3党は大筋で賛成する意向を示しており、審議が順調に進めば今国会で成立する見通しだ。

 現行法は労使が合意して基準を決めれば、企業は継続雇用の対象者を選べるが、改正案ではこの規定を廃止する。男性の厚生年金の受給開始年齢が来年4月から段階的に65歳へ引き上げられるのに伴う措置で、基準によって離職した人が無収入に陥るのを防ぐ。


 気になるのが修正部分ですが、濱口先生のブログ(こちら)に早速、衆院のリンク(こちら)が貼られており助かりました。なお本修正は提出法案(こちら)の一部を見直したものになります。

同修正案ですが、高年齢者雇用確保措置を定める高年法9条に次の3項・4項を追加修正する点が注目されます。

3 厚生労働大臣は、第一項の事業主が講ずべき高年齢者雇用確保措置の実施及び運用(心身の故障のため業務の遂行に堪えない者等の継続雇用制度における取扱いを含む。)に関する指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。

4 第六条第三項及び第四項の規定は、指針の策定及び変更について準用する。


厚労省が「心身の故障のため業務の遂行に堪えない者等の取扱い」を指針で定めることを法律上明記するものですが、これは本来、「普通解雇」など企業の人事権行使に直接関わる事項です。従前も裁判所が権利濫用法理によって、企業の人事権行使に対し一定のチェックが行ってきましたが、同条項によって、厚労省(職安局・ハローワーク)が人事権行使にまで踏み込んでチェックを行う基盤が作られることを意味します。

もちろん修正案4項のとおり、同指針は労働政策審議会の意見等を聴いた上で策定することが義務付けられるものですが、同条項を契機に、行政が企業の人事権行使に対し過度な規制を行うことにならないか懸念を覚えるところです。とりわけ当該基準が策定された場合、60歳段階はもちろん、50代以降の社員に対する人事権行使を事実上拘束しかねない点も注意を要すると考えます。杞憂やもしれませんが、雑感として。

2012年7月26日木曜日

無期転換制度をめぐる政府見解(衆院厚労委員会質疑)

昨日(7月25日)、改正労働契約法案が衆院厚生労働委員会で可決されましたが、同委員会における無期転換制度に係る質疑のうち、注目すべき政府見解を備忘録的に控えておきます。委員会質疑をメモしたものを自分なりに整理したものにすぎませんので、正確な議事内容については、近日中にUPされる衆院HPをご確認ください。
→以下は筆者のコメントです。

1 モデル労働条件通知書について

Q 無期転換制度に係る周知をどうするか
A(政府)パンフレットおよび「モデル労働条件通知書」による周知を検討

→モデル労働条件通知書が法施行前に示される予定 その中に無期転換に係る記述あり。内容は不明。

2 無期転換権の事前放棄について

Q 無期転換の権利発生前、使用者が労働者に当該権利を事前放棄させることは許されるか?

A 使用者側が権利発生前に一方的に事前放棄させることは法の趣旨を没却させるもので、公序良俗に反し無効になる可能性。

→放棄に係る同意が明確に認定される場合も同様か不明。

3 偽装請負等と無期転換について

Q 実態は変わらないが、偽装請負、派遣などに形式上偽装し、無期転換制度を免れようとする動きが想定されるが、このような対応は許されるのか?

A 法の趣旨目的を損なうものであり許されず。同ケースについては、偽装期間も含めて「同一の事業主」とし通算規定のカウントを行い、無期転換制度の対象となる。

→法人格の形骸・濫用にあたるケースに限定されるものとすれば異論はないが、派遣元・請負会社が権利主体として認められる場合、上記解釈を取ることは法文上無理がある(上記見解はあくまで法人格の形骸・濫用にあたるケースを指したものと捉えるべきか?)。

4 無期転換の権利発生時期について

Q 無期転換の権利は有期契約を5年超更新した場合に生じ、当該権利行使を当該有期契約の期間満了時までとしている。ある労働者が5年超の段階では当該権利を行使しなかったが、次期契約更新がなされた後(6年超)、無期転換の権利を行使することは可能か?

A 無期転換の権利は、有期契約が5年超となると更新の都度、発生する。5年超段階で行使しない場合も、次期更新(6年超)があれば、また更新時に新たな無期転換の権利が発生する。

→ この点は疑義がありましたので、同質疑によって政府見解は明らかになったものです。法文の作りからも同見解は首肯できるように思われます。

2012年7月25日水曜日

改正労働契約法案の衆院委員会採決

本日(平成24年7月25日)の衆院厚生労働委員会において、改正労働契約法案が可決されました。次本会議において衆院通過し、参議院に送付される予定です。

改正労働契約法案には、5年超の無期転換制度、雇い止め法理の明文化、均衡処遇規定などが盛り込まれています。

同法案ですが、実務対応上も様々な問題を抱えているように思われます。

例えば5年超の無期転換制度については、例外事由が何ら設けられておりません。この点については、少なくとも60歳以上の高齢社員、登録型派遣社員など他の労働関連法令との整合性からみて適用除外とする余地があるようにも思われますが、何ら当該配慮がなされていません。

衆院厚生労働委員会における実質審議は短く、改正労働契約法に伴う法的問題を十分に検討したものとは思われません。参議院において十分に審議され、必要に応じて法案修正などがなされることが望まれます(望み薄ですが・・・)。

なお本日、改正高年法が衆院厚生労働委員会において審議入りしました。

2012年7月14日土曜日

【労働判例】大阪労働局長事件(労災処理経過簿の情報公開請求)

第16回國学専修大労働判例研究会において、大阪労働局長事件(大阪地判平成23.11.10 労経速2131-3)を報告させていただきました。

 事案としては、原告が大阪労働局長に対し、情報公開法に基づき、大阪労働局管内における脳心臓疾患等に係る労災補償申請・決定処分の処理状況を記した処理経過簿のうち、「事業場名」記載部分を開示するよう求めたところ、不開示決定処分がなされた点が争われたものです(行政取消訴訟)。
 この処理経過簿は、いわゆる「過労死事案」に係る労災事案について、労働局が各労基署の事務処理の進捗状況を把握し、連携を図るべく、局監察官が作成していたものであり、事業場名のほか、認定要件、評価期間、平均時間外労働時間数なども一覧表に記載されています。

 処分庁は不開示理由として、当該事業場名を明らかにすれば、他の情報と照合して、「被災労働者名」など個人情報が識別される恐れがあること等を挙げていました。

 これに対し大阪地裁判決は、原告の請求を認容し、事業場名の不開示決定処分の取消を認めました。同訴訟において、処分庁側は先の理由のほか、当該情報は「法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある」、さらに「行政事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」などの主張を行いましたが、いずれも判決では斥けられています。

 同判決の中で注目されるのが、法人等情報に係る判示部分です。判決でも脳心臓疾患等による労災事案を発生させた事業場名が開示されることは、当該労災が長時間の勤務がその一因と思われるものが少なくないことからすると、「そのこと自体から当該事業場について一定の社会的評価の低下が生じる可能性は否定できない」と一定の理解を示します。しかしながら、他方で労災補償制度は「その支給決定に当たって使用者に労働基準法等の法令違反があったか否かを問題とするものではない」ことからすると、この社会的な評価の低下は「多分に推測を含んだ不確かなものにすぎ」ず、法人の正当な利益を害するおそれを認めるに足りる的確な証拠はないと結論づけたものです。

 研究会では、同判断の規範的評価とそのあてはめについて、議論がなされました。過去の先例として、36協定の情報公開が争われた大阪地判平成17.3.17がありますが、概ね同様の判断を示しているといえます。しかしながら、企業側からみると、当該開示による様々な実際上の「法人等の利益を害するおそれ」も指摘しうるところであり、報告者として当該判断を首肯すべきか、なお検討の余地があるようにも思いました。

 処分庁側は同地裁判決を不服とし、控訴しており、控訴審判決が待たれるところです。

2012年7月12日木曜日

胆管がん問題と国の規制(1,2-ジクロロプロパン)

 昨日のブログでは主に「ジクロロメタン」に対する法規制(MSDS等)を取り上げましたが、今回の胆管がん問題で悩ましいのが1,2-ジクロロプロパンです(MSDSの一例としてこちら)。同シートのとおり、ジクロロメタン(有機則等の適用)に比べて、同物質自体に対する法規制は手薄です。

 厚労省も同化学物質の危険性を軽視していた訳ではなく、がん原性検査(検討過程はこちら)の上で、平成23年10月に「1,2-ジクロロプロパンによる健康障害を防止するための指針」(見やすいものとして、さしあたりこちら)が策定されたところでした。

 今後、専門家調査によって「1-2-ジクロロプロパンと胆管がんとの間の因果関係」が明確に認められた場合、国側の規制不備・遅れに対し、行政権限不行使に係る国家賠償責任が問われる可能性はありそうです。とはいえ、前述のとおり国側もがん原性検査の上、一定の規制を指針レベルで行っていた経緯もあり、全くの不作為ともいえません。同問題が争われた場合、当時の科学技術の水準に照らして、当該行政規制が「遅れた」「不備」であったといえるのか否かが法的に問われることになろうかと思います。

2012年7月11日水曜日

胆管がんと化学物質の危険有害性の表示等

厚労省が印刷会社における胆管がんに関する一斉点検結果を発表しています(こちら)。

現時点で肝胆がんの起因物の可能性があるとされているのが、ジクロロメタンと1,2-ジクロロプロパンです。ジクロロメタンはすでに有機溶剤予防規則において、事業主に対し厳しい法規制が定められていますが、朝日新聞記事(こちら)を見る限り、中には法軽視もはなはだしい事業場があるようです。

印刷所8割、規則違反 局所排気、責任者知らず
 8割近い印刷事業所でルール違反――。厚労省の調査で、働く人の健康を守るための「有機溶剤中毒予防規則」(有機則)に違反した事業所が広がっている実態が浮かび上がった。

 「局所排気? 聞いたことがない。換気扇で足りると思う」。大阪府内の校正印刷会社に20年勤める現場責任者は話した。有機則は、有機溶剤を吸い込んで屋外へ排出する「局所排気装置」の設置を義務づけているが、この現場責任者は知らなかったという。

 問題発覚まで同社は、胆管がん発症との因果関係が疑われている有機溶剤のジクロロメタン80%の洗浄剤を使用。局所排気などの設置が必要だが、「五つある換気扇で十分」と考えていたという。

 同じように義務づけられた空気濃度の測定もしたことがなかった。有機溶剤を取り扱う労働者には半年ごとに特別な健康診断を行う必要があるが、一般的な健診を「各自で任意でやっている」という。

 校正印刷に携わる別の府内の印刷会社も「今回の問題が発覚して初めて規則を知った」。労働基準監督署の調査を受けたこともなく、規則に関する講習を受けたこともないという。

 日本印刷産業連合会(東京)は1980年代から90年代にかけて、手引書「印刷と有機溶剤」を作り、業界内で啓発してきた(略)。


 しかし、業界に浸透しなかった。連合会の担当者は「業界の末端まで伝わらなかった面がある。印刷業界は零細企業が多く、健康が後回しになっていたのかもしれない」(以下略)。


 この記事だけを見ると、中小零細印刷業者が「ジクロロメタン」等の危険性を認知していなかったとしても、労基署の指導や連合会の周知啓発活動が足りなかったためであり、致し方ないようにも読めますが、果たしてそうでしょうか。以下法規制内容が極めて重要です。

 平成4年7月1日から施行されている「化学物質等の危険有害性等の表示に関する指針」(安衛法57条の2)において、すでに「ジクロロメタン」を提供した業者等が、ユーザー企業に対して「化学物質等安全データシート」(MSDS)を交付することが義務付けられています。

 ジクロロメタンに関するMSDS(こちら)をみると、p8以下に有機則を含めた法規制内容が記載されていますし、人体への影響も明記されています。またMSDSは事業場に掲示することも合わせて求められます。今回、問題となった印刷会社に対しても、購入時に当該文書が交付されている可能性が高く、MSDSが交付されている限り、当該事業主の「法の不知」「危険性の不知」は認められないものと考えます。

2012年7月10日火曜日

胆管がん問題と労災法における消滅時効


印刷会社における胆管がん問題をめぐる新聞報道を見ていて、気になっていたのが、労災法における時効の問題です。毎日jpなどでは、次のとおり報じています(こちら)。

胆管がん:印刷会社の発症者3人 労災認定が時効に
毎日新聞 2012年06月21日 15時00分

 大阪市内の印刷会社で従業員や退職者計10人が胆管がんを発症した問題で、発症者のうち3人は死後5年を経過しており労災認定の時効となっていることが分かった。時効は、一定期間内に権利を行使しなかった被害者に請求権を認めない規定だが、今回の問題では、印刷会社で胆管がんが発症しやすいことは厚生労働省も確認していなかった。支援者からは、時効となった発症者も補償対象にすべきだとの声が上がっている。

 労働者災害補償保険法では、労災申請の請求期間は死後5年までと規定している。

 今回の胆管がんの発症者10人は、療養中が5人、死亡5人。ほとんどの患者は入社時から約10〜20年の潜伏期間を経て発症し、療養者4人と死者2人の遺族が労働基準監督署に労災認定(補償)を求めている。

 しかし、4人が労災認定を未申請で、このうち3人は00〜06年に死亡した。熊谷信二・産業医科大学准教授の調査研究で今年5月、胆管がん多発が発覚した時点では既に死後5年以上が経過し、同法の規定で時効になっていた(以下略)


 確かに労災法42条では、療養補償給付、休業補償給付等を受ける権利は、2年を経過したとき、障害補償給付、遺族補償給付等を受ける権利は、5年を経過したときは、時効によって消滅すると定められています。
当該時効の起算日については、保険給付の支給事由が生じた日とされており、遺族補償給付であれば、労働者が死亡した日が起算日となります。

以上の整理を前提とすれば、5年前に胆がんによって亡くなられた労働者の遺族による遺族補償給付請求権が時効消滅することになりそうですが、裁判例・学説は時効の起算日について、異なる見解を取り得ることを示唆しているように思われます。

山口浩一郎上智大学名誉教授の名著「労災補償の諸問題(増補版)」(信山社,2008)に掲載されている論文「労災保険における保険給付請求権の消滅時効」(同書p389)を見ると、最近の判例傾向として、「現実行使期待可能説」の立場が紹介されています(アマゾンはこちら)。

これは権利行使に法律上の障害がなく、かつ権利の性質上その権利行使を現実に期待できる時点をもって時効の起算日とする考え方です(例えば大垣労基所長事件 名古屋高判平成3.4.24 労民集42-2-335。その他詳細は同書p399注7参照)。

山口先生は同立場を支持し、「原則的にはやはり支給決定請求権の消滅時効の起算日は民法166条1項に従い、権利行使が可能となった日すなわち支給事由発生の日とし、通常人を基準として、事実上権利行使が可能でなく妥当でない結果が生じるときは、例外的に現実に行使が可能になった日とすべきであろう」とされます。

山口先生がご執筆された時点では想定されていなかったと思いますが、まさに本件事案は「通常人を基準として、事実上権利行使が可能でなく妥当でない結果を生じるとき」に該当するように思われます。とすれば、現行法制上も時効消滅していないとの判断を取り得る(行政段階でも)し、アスベスト問題と同様に特別法を制定し、救済しても良いでしょう。いずれにしても本申請については、厚労省も上記いずれかの対応を講じるように思われます。

余談ですが、院生時代に恩師の故倉田聡先生から、「本当に良い論文かどうかは、時間が証明する」との教えを受けたことがありました。山口先生の上記論文集はそのお手本ともいえるものです。

【追記】さきほど時事ドットコムで続報を目にしました(こちら)。

原因判明時で検討=労災認定の時効起算点-印刷会社の胆管がん・厚労省
 大阪市の校正印刷会社の元従業員らが相次いで胆管がんを発症した問題で、厚生労働省は10日までに、労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づく遺族補償給付の時効(5年)の起算点を通常用いられる元従業員らの死亡翌日ではなく、業務との因果関係が分かり、請求できるようになった時点とする方向で検討を始めた。
 死亡翌日を起算点とすると時効を過ぎる遺族が複数いるためで、業務と胆管がん発症の因果関係の蓋然(がいぜん)性が高いと判断されれば労災認定される見通しだ。ただ、因果関係に関する研究は始まったばかりで、予断を許さない。(2012/07/10-21:57)

 当然の判断かと。

2012年7月9日月曜日

【労働判例】郵便事業(期間雇用社員・雇止め)事件等

先日、出席した筑大労働判例研究会(江口教授、川田教授主宰)において、以下裁判例が検討されました。
郵便事業(期間雇用社員・雇止め)事件 広島高判岡山支部平成23.2.17労判1026-94。
澤路会員が的確なご報告をされ、大変勉強になりました

 事案としては、日本郵政公社時代から、配達業務(バイク)に従事していた非常勤職員が、郵政民営化後、初回の有期契約が締結されるものの、初回契約満了をもって更新されなかった点が争われたものです(雇い止め無効)。郵便事業側は公社時代も含め、同人の交通事故歴を雇い止めの理由の一つに挙げていました。

 原審は公社時代と民営化後の関係を明確に分けた上で、民営化後の雇用契約関係は初回をもって終了したことから、更新期待は認められず、雇い止め法理は適用されないとしました。その上で他の規定等に照らしても、交通事故歴などから契約更新しなかったことが違法とはいえないと結論づけます。

 これに対し控訴審判決は公社時代と同人が同じ業務・処遇であること、また契約更新歴が合わせて13回(4年10ヶ月あまり)にものぼることなどを指摘し、「公社およびYの業務にとって常時不可欠の存在であり、しかもその任用ないし雇用継続は強く期待されていたということができる」とします。その上で雇い止め法理の適用があるとし、解雇権濫用法理の類推適用から、本件雇い止めは違法と結論づけたものです。

 研究会では、同控訴審も公社時代の任用関係においては、明確に雇い止め法理の適用を排斥する一方、何故、民営化後に公社時代の実績も含めて「雇用継続の期待」が認定されるのか。本件雇い止め法理適用の理由付けを中心に議論が盛り上がりました。

 近年、社会保険庁、保育園その他公共部門の民営化が進められる中、同種の法的紛争が多発する可能性があるところ、本判決は先例としての意義があります。今後の裁判例の動向にも注目しておきたいと思いました。

 もう1本の報告は、生活保護開始申請却下取消訴訟等請求事件(東京地判平成23.11.8賃金と社会保障1553/1554-63頁)で、院生の吉田さんがご報告されました。生活保護制度が注目されている中、大変、興味深い事案でした。生存権とご本人の意思の尊重、社会的コスト。難しい問題です。

2012年7月6日金曜日

改正派遣法政省令案の了承

昨日(6月5日)の厚労省労働政策審議会で本年10月1日から一部施行される改正派遣法の政省令案が了承されました(毎日新聞newsはこちら)。

改正派遣法:日雇い禁止例外、年収500万円以上
毎日新聞 2012年07月05日 19時50分(最終更新 07月05日 20時19分)

 3月に成立した改正労働者派遣法で、原則禁止となる「日雇い派遣」(雇用期間30日以下)に関し、例外として認める対象を「世帯収入が年500万円以上」とすることなどを盛り込んだ政省令案が5日、厚生労働相の諮問機関・労働政策審議会で了承された。

 改正派遣法は10月施行。政省令案ではそのほか、60歳以上や昼間は通学している学生の日雇い派遣を可能とすることや、派遣法で「専門業務」と定める26業務のうち、ソフトウエア開発や機械設計などの17業務と受付・案内業務の一部への派遣を例外として認めることも明示された。

 日雇い派遣は「ワーキングプア」の温床になっていると指摘され、禁止が求められてきた一方で、「多様な働き方を阻害する」との声もあり、審議会で詳細が議論されてきた。【市川明代】

 厚労省HPに、同日の審議会資料がすでにUPされています(こちら)。このうち政省令案をコンパクトにまとめているのが、この資料です(こちら)。グループ派遣規制の詳細についてはp3に、日雇い派遣規制はp1以下に示されています。分科会ではこの2点が相当紛糾したようですが、厚労省が押し切った感がありますね。

 なお同日の審議会では、雇用調整助成金の見直しも合わせて示されています(こちら)。同見直しも大変、重要です。

2012年7月5日木曜日

厚生年金基金の代行割れと解散問題(有識者報告書)

厚生労働省がAIJ投資顧問事件を受けて、再発防止対策等を検討するために参集した「厚生年金等の資産運用・財政運営に関する有識者会議報告書」が先月29日にまとまっています(研究会資料はこちら)。

 同報告書を読んで改めて衝撃を受けたのが、基金(総合型)の代行割れ(保有資産が最低責任準備金に満たない状況)が平成22年末時点で全体の約4割にも及んでいるとの記述です。代行割れの基金が解散しようにも、母体企業が不足分を納付しなければならない上、特例で認められた分割納付中に一部の企業が倒産すると、不足分債務が残った事業所に連帯責任が求められることになります(兵庫県乗用自動車厚生年金基金の事例が報じられた日経記事はこちら)。

 同問題に対し、今回の報告書では次の提言がなされています(p12)。

○代行部分の積立不足は母体企業が責任をもって負担することが前提であるが、一方で中小企業の連鎖倒産等による地域経済・雇用への影響、さらに基金を構成する企業が全て倒産した場合には結果的には厚生年金保険本体の財政へ影響を与えることなどを踏まえれば、問題を先延ばしせず早急に制度的な対応を行う必要がある。


○具体的には、モラルハザードの防止に留意し、厚生年金保険の被保険者の納得が十分に得られる仕組みであることを前提に、基金の自主的な努力を支援するとの観点から、特例解散における現行の納付額の特例措置や連帯債務の仕組みを見直すことを検討すべきである。この場合、連帯債務の問題については、解散後も国と基金との間の債権・債務関係が続く現在の仕組みを見直して、解散時に各事業所の債務が確定できるようにすることを検討すべきである。(以下略)。


 解散における納付額の特例措置(分割納付等)や連帯債務の仕組みの見直しが提言されていますが、具体的な中身までは踏み込んでいません。日経報道によれば、この中身として、以下のものが想定されているようです(こちら)。

財政悪化に苦しむ基金に限って、解散を促す。解散するときに国に返還が義務づけられている積立金は減額し、加入企業の負担を減らす。厚労相が解散命令を機動的に発動することも検討する。
 積み立て不足を連帯して返済する制度は廃止する。いまは仮に基金の加入企業1社が倒産しても、その分は残った企業がかぶる仕組みで、返還金の支払いに耐えきれず、連鎖倒産を誘発するおそれがあった。ただ、返還金を減額した分や倒産企業の積み立て不足分は、厚生年金財政で穴埋めする形になり、企業やサラリーマン全体に影響が及ぶ。

 来年の通常国会提出に向けて、今後、厚労省は細部を詰めていくとの事ですが、厚生年金本体の財政に影響を及ぼす問題でもあり、なかなか調整は難航しそうです。AIJ問題が発端になりましたが、以前から同問題に頭を抱えている中小企業が多く、大変な難題だと感じていました。法改正の動向を注視する要があります。

 なお本問題について、的確な解説を行ったブログとして、森本紀行氏によるものがあります。とくにコラム「厚生年金基金の相互扶助原理」は大変有益でした(こちら)。

2012年7月2日月曜日

日雇い派遣規制と労務管理代行(改正派遣法対応)

改正派遣法が一部施行される平成24年10月1日が近づいてきました。同施行の詳細を知るためには改正政省令・通達等を確認する要があるところ、ようやく今週7月5日の労働政策審議会答申を経て、今月中に派遣法政省令、関連通達が発出される目処がついてきたようです。先週の労働政策審議会需給調整部会において示された最終案はこちら

日雇い派遣規制などをみると、思いの外、規制が厳しいようにも思われます(例えば、専業主婦(夫)についても世帯年収500万円以上でなければ日雇い派遣規制の適用除外を認めない等)。

今朝の日経をみると、早速、派遣会社が職業紹介およびその他労務管理代行サービスへの転換を強化する例などが報じられています(こちら)。労務管理代行のメニューとして

労働条件通知書の発行や年末調整など直接雇用に伴う煩雑な事務手続きの代行

などが挙げられています。

たしかに直接雇用に伴う煩雑な事務手続きが予想されますが、何よりもユーザー側が注意しなければならないことは、代行業者が直接雇用に伴う法的責任を「代行」してくれる訳ではない点です。ユーザー企業も法的リスクを十分に検討した上で、派遣法改正への対応を検討する要がありそうですね。

2012年7月1日日曜日

教室で学ぶワークルール(旬報社)

恩師道幸哲也先生から「教室で学ぶワークルール」(旬報社)を贈呈頂きました。いつも誠にありがとうございます(出版社の同著案内はこちら)。

 同著は高校生を主な対象に「できれば教室で、授業とディぺートのために使ってほしいと思います。外部の講師と先生とがコラボの授業をし、それをふまえて生徒が討論することになればすてきな試みであると考えます(同著6p「はじめに」)」とされています。

 この本で大きな特徴と思われるのが、「第3部のワークルールを生かす」。大変具体的かつ分かりやすく労働法の生かし方を解説されておられます。その中でも特に「権利意識を持つ」とともに「日々の生活を見直す」「一緒に行動する仕組み」を強調されておられる箇所(p106~108 例えば以下)は、ぜひご一読いただきたい部分です。

「日頃のつきあいなしに、必要なときにだけ他人に頼り、利用することは許されません。日ごろの行いは結局自分に返ってきます。」 等

 企業人事の立場からみても、上記部分は最近のメンタル問題対応の観点から重要な示唆が与えられる点と思われます。


 最近、各地の社労士会が、地元の小中高生向けに出前授業を行う機会が増えていますが、本著がそのような機会に活用されれば良いですね。

2012年6月30日土曜日

第15回國學専修労働判例研究会について

昨日は標記研究会に出席しました。同研究会は専修大の小宮文人教授、國學院大の本久洋一教授が主宰されており、最新労働判例研究を目的とするものです。今回は本久教授が神戸刑務所事件(神戸地判平成24.1.18労旬1766-65)、戸谷准教授がケーメックス事件(東京地判平成23.8.31 労判1038-68)をご報告。

 神戸刑務所事件は、国による偽装請負と団体交渉拒否に対する損害賠償請求が争われた事案です。偽装請負は認定された一方、損害賠償請求は否定。その一方、労働組合の団交権侵害に対する損害賠償請求は認容されています。

 ケーメックス事件は、賞与請求権と労働組合との団交不調が問題となった事案です。同社は以前から賞与決定を一方的に行っていたところ(従業員への賞与額通知・同意済)、新たに結成された多数労働組合との確認書取り交わし不調を理由に、賞与不支給とした事の可否、および誠実団交義務違反等に対する損害賠償請求が問題となっています。判決では前者について賞与支払いを命じる一方、後者の請求を否定しました。
 中小零細企業などで、外部労組支援の下、新たに労働組合が結成された後、同種労使紛争は生じる可能性があるようにも思われ、実務的にも興味深い事案です。

 いずれも大変勉強になりました。個人的には偽装請負状況下における発注者(派遣先)の法的責任を整理できた点が有意義でした。改正派遣法の施行によって、さらに同種法的紛争が多発する可能性を感じます。予防策含め、検討を進めておきたい問題です。

2012年6月29日金曜日

海外労働法制の把握の難しさーイタリア労働市場法改正をめぐる報道等から

平成24年6月27日、イタリア議会で労働市場法改正案が成立した旨、報じられています(時事通信配信はこちら

伊、解雇規制を緩和=構造改革と成長両立へ―労働市場法成立
時事通信 6月28日(木)6時27分配信

 【ジュネーブ時事】イタリアのモンティ政権が構造改革による成長戦略の柱と位置付ける労働市場改革法が27日、下院で賛成393、反対74で可決、成立した。上院では5月末に承認済み。企業の解雇が事実上できない現行法を改め、労働市場の活性化と投資促進を狙う。
 欧州連合(EU)首脳会議の直前に懸案の改革が一歩前進したことで、モンティ首相の面目が保たれた形。ただ、法案審議で骨抜きにされた部分も多く、首相の求心力低下が懸念されている。
 焦点は業績悪化を理由とした正社員の解雇を認めない「労働憲章法18条」の改正。企業は事実上、倒産しない限り解雇ができず、企業競争力低下や国外からの投資の阻害要因とされ、産業界が撤廃を訴えていた。 


上記記事だけを見ると、イタリアは整理解雇含めて「解雇事由規制の緩和に乗り出した」と読めなくもありません。

この点について、以前から正確な情報を発信されておられるのが、神戸大学の大内伸哉教授です。愛読している先生のブログ(アモーレと労働法)において、すでにイタリア労働法改正動向が紹介されています。

ミラノ到着(こちら
ゼロは複数?(こちら
再び労働者憲章法18条(こちら
第71会神戸労働法研究会(こちら

今回改正された労働者憲章法18条は、「解雇事由規制」そのものではなく(別に規定あり)、違法な解雇に対する救済(原職復帰)が定められた条文であること。また同条は広範囲な中小事業主に係る適用除外規定が設けられており、大半のイタリアにおける雇い主には適用がなかった点などが紹介されており、大変勉強になります。

日本の労働法制についても、なかなか諸外国(そして国内でも?)で正確に理解されていない点があるようにも思われます。イタリアの法改正報道等を通じて、改めて海外労働法制の理解の難しさを感じた次第。

【追記】法学教室6月号に大内先生が「法律家の使命?ー最近のイタリアにおける解雇法制改革の報道をめぐって」を寄稿されておられるとのこと(ブログ記事はこちら)。ぜひ拝読したいと思います。

2012年6月28日木曜日

政治休職制度と解雇(今朝のニュースから)

社会保障と税の一体改革関連法案が衆院通過しました(パート社保適用拡大法案も含む)が、国会はしばらく空転する可能性が高いとのこと。空転期間中も国会関連の人件費その他コストがかかっており、その額は本当に馬鹿になりません。「花いちもんめ」をお楽しみ中の先生方につきましては、「ノーワーク・ノーペイ」の原則に立ち戻り、「国会議員」としての歳費を無給にできないものでしょうかね(※なお現行法(こちら)では、国会議員である限り歳費が支給されることになっております、念のため)。顧問先様の製造工場における企業努力を見るにつけ、その思いを強める今日この頃。

 ところで今朝のasahi.comに次の記事が掲載されていました(こちら)。

「サラリーマン議員「クビは不当」 元勤務先パソナを提訴」

 「サラリーマン議員」として会社の休職制度を利用しながら議員活動を続けていた東京都の浜田浩樹・渋谷区議(34)が、2期目に入ったところで解雇されたのは不当だとして、人材派遣会社パソナ(東京都)に解雇の無効と200万円の慰謝料を求めて提訴した。27日に東京地裁で第1回口頭弁論があり、パソナ側は争う姿勢を示した。

 訴状によると、浜田区議は2001年にパソナに入社。07年4月に初当選し、政治活動のために休職できる制度を使い、パソナからの給料は受け取らずに議員を務めていた。だが11年4月、2期目に当選すると、会社から「休暇制度は最長4年間」として退職を促され、断ると同年12月に解雇を通告された。

 浜田区議は「休職に期限があるとは事前に聞いていなかった。延長が無理なら復職して議員活動と両立すると伝えたが、断られた」と話している。一方、パソナ広報室は「外部での経験を会社に持ち帰り、生かしてもらうための制度。1998年の開始時から『原則として最長4年間』と決まっていた」としている。(高野遼)

 政治休職制度も「休職制度」つまりは労働義務を一定期間免除する制度であることから、通常は「期間」が定まっているものと思われます(なお同社の広報案内はこちら)。 同社の就業規則に休職制度とその「期間(4年)」が規定されており、かつイントラネット等で「周知」がされていた場合は、法的に有効といえそうです(労働契約法7条)。とすれば、同区議は2011年4月には休職期間が満了しているため、就労義務が生じることになります。

 記事によれば、区議は「延長が無理なら議員活動と両立する旨申し出たが断られた」と主張されているようですが、そもそも区議と従業員の両立が一般に可能でしょうか。区議会が平日夜・土日祝日開会であればとも思いましたが、残念ながら渋谷区議会はそのような運営ではないようです(こちら)。年休取得による対応もこの会期日程では難しそうですね。そのような中、区議会を理由に出社していないとすれば、会社として普通解雇が可能か否か。
 
 法的には以上の点が争点になろうかと思いますが、人事労務上の観点からは、労使双方ともにコミュニケーションが足りない感を受けます。お互い事前に休職・復職あるいは再出馬等に関する連絡を取り合っていれば、このような紛争は通常、未然防止できるでしょうね(コミュニケーションを取れない別の深刻な原因がある場合もありますが・・・)。
 いずれにしましても判決が示された場合は、改めて検討してみたい事案です。

 

2012年6月26日火曜日

パート等社会保険適用拡大法案の衆院採決

本日(平成24年6月26日)、衆議院本会議で社会保障と税の一体改革関連8法案が採決される予定です。消費税率の引き上げと与党議員の造反数がもっぱら注目を浴びていますが、企業人事からみて重要な影響を受ける法案として、「公的年金制度の財政基盤および最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律案」があります。同法案には、パート等の社会保険適用拡大案が盛り込まれているものです。

パートの社会保険適用拡大案は自公民協議による修正を経て、以下の内容で本会議に提出されることになりました。
①1週間の所定労働時間が20時間以上であること
②当該事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれること
③報酬について、標準報酬月額が8万8千円以上であること(修正)
④高等学校の生徒、大学の学生等でないこと

 また当分の間、常時500人以下の通常の労働者およびこれに準ずる者を使用する中小事業主には上記適用拡大は行わないこととしています。以前、本ブログでこの問題を取り上げました(こちら)が、法案を見る限り、「事業場」でみるのではなく、当該企業全体(事業主)で労働者数を見ることになるものです。

 同法案の施行時期は2016年10月1日とされ(修正)、施行後の拡大等については「施行3年以内に検討を加え、その結果に基づき、必要な措置を講じる」(修正)こととしています。

 本国会において同法案が成立した場合、500人超企業(社保適用対象)では、4年後の秋から短時間労働者に対する厚生年金・健康保険の適用拡大が義務付けられることとなります。

 衆院厚生労働委員会において審議入りした労働契約法案への対応も含めて、中堅以上の企業では、有期・短時間労働者の雇用管理のあり方を再考すべき時を迎えています。
今後は顧問先様等の各社から具体的な対応に係るご相談が増えてきそうですね。

2012年6月23日土曜日

衛生委員会の重要性

「衛生委員会」の重要性を再認識させられるニュースです。労働安全衛生法・労働安全衛生規則等で非常に詳細な安全・衛生基準が設けられていますが、この基準はあくまで「過去の知見(災害事例等)」を基に作られたものです。新たな職場の安全と健康への脅威には、何よりも職場内での早期発見・対応が必要。同発見・対応の中心となるべき組織こそが「衛生委員会(もしくは安全衛生委員会)」に他なりません。実効性ある衛生委員会活動を行っていきたいところです。


<胆管がん>多発の印刷会社 予防の衛生委員会設置せず

毎日新聞 6月22日(金)15時0分配信(こちら

大阪市内の印刷会社で従業員らに胆管がんが多発している問題で、労働者の意見を反映して職業性疾病を予防する「衛生委員会」などを同社が設置していないことが22日分かった。労働安全衛生法で設置が義務付けられており、厚生労働省は違法として先月30日に是正勧告した。同社では10年以上前から複数の従業員が、社内で使われていた有機溶剤が体調悪化の原因と疑い、換気の改善も訴えており、衛生委員会が設置されていれば、発症を早期に把握できていた可能性がある。

 労働安全衛生法によると、業種を問わず、労働者が50人以上の事業所は、健康に異常のある人の発見や措置、病気による死亡を調べて記録などをする「衛生管理者」を置く義務がある。さらに、労使一緒に健康障害を防止するため、「衛生委員会」を設置し、月1回開催して職場環境の維持・向上に努めなければならない。

 問題の印刷会社は従業員が50人以上おり、衛生管理者や衛生委員会を設置しなければならない。厚労省によると、同社は衛生管理者も設置していなかった。同社の勤務経験者によると、90年代、体調を崩した従業員が「有機溶剤が原因ではないか」と会社側に訴えたが、否定され、叱責を受けた。職場は有機溶剤特有のにおいが漂い、吐き気などを訴える従業員がいた。別の関係者によると、別の従業員が上司らに換気の改善を2回求めたが、反映されなかった。「職場環境の改善が見込めない」として退職する人もいたという。厚労省もこうした証言を把握している模様だ。

 同社では10人が胆管がんを発症し、うち2人は在職中に死亡した。問題は今年3月末、遺族らが労災申請したことで発覚した。大阪労働局は一般論と断った上で「衛生委員会があれば、在職死亡は当然、報告され、議題になる」と説明している。

 印刷会社の代理人の弁護士は、換気改善の訴えがあったことについて「事実か確認できていない」と話した。【大島秀利】

2012年6月21日木曜日

改正パート労働法案の動向



本日、労働政策審議会の建議(今後のパートタイム労働政策)が出ました(こちら)。厚労省は同建議を受けて、改正パート労働法の法案要綱の取りまとめを本格化する予定です。

ところで長期間の国会空転・社会保障と税の一体改革特別委員会党の開催のため、衆院厚生労働委員会における労働関連法案の審議が遅れに遅れています。派遣法は成立しましたが、改正労働契約法案は趣旨説明の段階に留まり、その他高年法、労働安全衛生法改正案は審議入りしていない段階です。そのため国会の大幅延長が決定されたといえども、改正パート法案の国会提出は次の国会(特別会?)か、若しくは来年の通常国会になる可能性があります。

同報告書を見た印象で言いますと、中身自体はさほど大きなインパクトがなさそうですが、9条2項の削除がどのような意味を持つのか考えあぐねているところ。

2012年6月13日水曜日

パートの社会保険適用拡大の動向

社会保障と税の一体改革関連法案をめぐり、民主・自民・公明の修正協議が活発化しているようです。自民・公明は一体改革法案の修正協議を15日で打ち切る旨、宣言しており、いよいよ残りわずか3日。その中で地味ながら、人事労務に大きなインパクトを与える改正法案が標記のパート社会保険適用拡大案です。
 これについて、一昨日の報道(こちら)では、自民党が反対、公明党が賛成する考えを示したとの事。「一体改革」法案であるため、公明がこの部分に賛成したからといって、同法案成立の目処がついたとは到底いえない情勢ですが、注目すべき動きとはいえるでしょう。

2012年6月5日火曜日

グループ企業内派遣規制の動向(改正派遣法)

本年4月に成立した改正派遣法において、地味ながら注目すべき改正点としてグループ企業内派遣規制の問題があります。

 大手企業が派遣会社を子会社として設立し、同社が大手企業のグループ企業各社に労働者派遣を行うことがよく見られた訳ですが、今回の改正法はこれを規制することとしました。

 派遣元に対して、グループ企業への派遣割合を8割以下とすることが義務付けられるものです。問題はここでいう「グループ企業」ですが、先日の厚労省労働政策審議会労働需給調整部会で示された資料によれば、次のとおりとされています(案段階 詳細はこちら またこちらも参照)。

 建議段階 グループ企業を「親会社及び連結子会社」

政省令案
 ①連結決算を導入している場合
 ア)親会社等 派遣元事業主が連結子会社である場合の当該派遣元事業主の親会社等
 イ)親会社の子会社等 親会社等の連結子会社

 ②連結決算を導入していない場合
 ア)親会社等 派遣元事業主の議決権の過半数を所有している者
        資本金の過半数を出資している者
        これらと同等以上の支配力を有する者
 イ)親会社等の子会社等
        派遣元事業主の親会社等が議決権の過半数を所有している者
        資本金の過半数を出資している者
        これらと同等以上の支配力を有する者

また8割以下か否かの計算方法については、次の省令案が示されています。

 派遣労働者の関係派遣先での派遣就業に係る総労働時間ー定年退職者の関係派遣先での派遣就業に係る総労働時間 ÷ 派遣労働者の全ての派遣就業に係る総労働時間

 なお定年退職者の範囲は「60歳以上の定年退職者」とすることとしています。改正高年法案との関係においても、大変注目すべき省令事項と思われます。

 今後、改正派遣法の政省令内容および通達が注目されます。


2012年3月28日水曜日

改正派遣法の成立

本日(3月28日)、参院本会議で改正派遣法案が可決、成立しました(asahi.comはこちら)。紆余曲折の多い法案であり、自公民修正によって当初の閣法から「登録型派遣、製造派遣の原則禁止」規定が削除されています。この点からマスコミ等は「骨抜き」であるとの指摘を繰り返し行っていますが、同改正法では、紛れもなく派遣元・先規制が強化されています。
特に派遣先(ユーザ企業)から見て注視すべきは「みなし雇用制度」の創設と思われます。これは端的に言えば、偽装請負、専門26業務適正化プラン違反(正確には派遣制限期間超過)等の場合、派遣先が派遣社員に雇用を申し込んだものとみなされる制度であり、今後、同トラブルが再燃することが懸念されるところです。なお同みなし雇用の施行は3年後を予定しています。

2012年3月23日金曜日

改正労働契約法要綱案の答申遅延の理由

平成24年3月16日、労働政策審議会は有期労働契約に対する規制強化を盛り込んだ改正労働契約法要綱案を答申しました(こちら)。しかしながら同労働政策審議会労働条件分科会が異例なことに一度流会しており、国会提出時期に遅れが生じています。同流会は労働側委員の反発が理由と聞いておりましたが、その反対理由等が連合のホームページに「議事録(労働側委員)」の形で掲載されています(こちら)。

これを見ると法案要綱に無期転換の申込み期間が「契約満了日までの間」と明記されている点が反発理由のようです(建議と異なるとの主張)。この点について厚労省側は同期間を設けることの必要性と労働者に対する事前説明の充実をもって説得し、とりあえずは労働側も矛を収めています。
労働条件分科会を傍聴していた立場から見ると、上記点について、事務局側が幾度か同趣旨の説明を繰り返しており、この点に限れば法案要綱および事務局側説明は適切のようにも思われるところです。

いずれにしても近日中には同法案が国会提出され、本格的な審議が始まる予定(?)です。企業実務に対する影響も大きい法案ですので、しっかりと国会でご審議頂きたいところ。

2012年2月22日水曜日

パート社会保険適用拡大どうなるの?

小宮山大臣の記者会見です。民主党内でまたも「大荒れ」の様子ですが、前原政調会長の発言を借りれば、大臣ご本人が「前のめり」である感を受けます(こちら)。最後のコメントですが「私は」という留保が入っているのが、なかなか味わい深い印象。

(記者)
 社会保険の適用拡大の関係で、昨日民主党の役員会で慎重論が出たということもありまして、前原政調会長までもと言いますか、厚労省が前のめりだというような発言をされていたようなのですが。
(大臣)
 前のめりとは、どういうことを言っているのでしょうね。前原政調会長とは私も直接話をしています。全体に消費税をご負担いただくことで企業への負荷がかかるところに、また今回短時間労働者への社会保険適用拡大をすると企業の負担が大きいということが特に経済成長を重視する皆さんなどからご批判があることは重々承知をしています。ただ、この社会保険の適用拡大というのは、今回ずっと申し上げているように、消費税を5%上げさせていただくとして、その4%はどちらかというと今の制度安定化と後世にツケ回しをここで止めるということなので、1%の部分が充実な訳ですよね。その中の柱としては、子ども子育ての支援策と、それからこの格差をなくしていくことと、総理も先日施政方針でも言われた女性が参加をして輝く社会というのは、これは言っただけでは当然できませんので、環境整備をしていかなければいけない。そうした意味でも野党のときの19年に出された法案の主たる生計維持者20万人が対象と思われるところでは狭いという批判を民主党はしてきたので、私としては何としてもここで、もちろん現実を踏まえながら、現実的な中でもやはり非正規の皆さんが増えてきている、大体厚労省のほうの統計でも4割近くになっている訳ですので、特に女性は53%が非正規で働いているという中で、そうした非正規の皆さんの働き方をしっかりとバックアップをしていくということは、これからの日本の経済成長という意味からしても、当然必要だと思っています。そこのところはしっかりとそういう理解を深めてもらうように、働きかけをしていきたいと思っています。
(記者)
 今大臣は19年法案の20万人は狭いと仰いましたけれども、今回政府のほうに出されるのは、少なくともこの19年法案よりは前進したものを。
(大臣)
 はい。と、私は思っています。

2012年1月11日水曜日

パート厚生年金適用拡大の方針について(日経記事から)

今朝の日経新聞(2012.1.11)にパート社会保険適用拡大(厚労省案)が報じられています(こちら)。


厚生労働省は社会保障と税の一体改革素案に盛り込んだパート労働者の厚生年金・企業健保への加入拡大で、当面は従業員300人以下の企業で働くパートの適用を猶予する方針だ。中小企業の保険料負担が急増しないよう対象者を絞る。300人超の企業でも対象者は月収9.8万円以上に制限する激変緩和措置を検討する。


政府は厚生年金・企業健保の加入条件を週30時間以上労働から20時間以上に緩め、約400万人のパート労働者を国民年金国民健康保険から厚生年金・企業健保に移す目標を掲げている。一体改革関連法案に盛り込む方向で、2015年度までの実現を目指している。(以下略)


 余計な一言を言わせていただければ「大山鳴動して鼠一匹」といったところでしょうか。当初はいっきょに400万人ものパート等を社会保険適用拡大するとの意気込みでしたが、次第にトーンダウンし、結局は自公政権が提出した年金一元化法案と同じく、300人以下の中小企業適用除外、対象者の月収9.8万円以上となるようです。適用対象者も数10万人に留まる見込みとの事。若干、平成19年法案と変わるところがあるとすれば、雇用保険法改正に合わせて、適用対象者の勤務期間が1年から31日に短縮される点などと思われます(平成19年当時の法案資料はこちら)。


 問題は同案による適用対象事業場・労働者の具体的範囲です。パート比率が高く、業界挙げて反対の声が根強い商業・外食などのサービス産業について考えてみると、1店舗あたりの社会保険適用対象者数だけ取り上げれば300人を超えるような事業場は少数と思われます。したがって、大規模小売店舗を除くと、これらサービス業の大半は適用から外れるようにも見えます。
 しかしながら、企業全体でみれば、優に社会保険適用対象者が300人を超える会社が多いところ、この点をどのようにカウントするのか。先の日経記事でも「300人以下の企業」と記載されており、労働者数のカウント方法が定かではありません。今後の実務対応上、最も重要な解釈問題といえます。さしあたり参考になるのが平成19年法案の資料ですが、中小零細企業の適用除外に係る記載の中に以下の注が見られます。
  「現在厚生年金の適用対象とされている従業員の人数で算定」


 まず本社・各店舗含めて、社会保険の一括適用事業場としている場合は、ねんきん事務所等の管理においても、当該企業全体の適用対象者数を合算していることからも、これが300人超であればさしあたり適用対象となりそうです。
 これに対して、社会保険の一括適用を行っていない場合はどうか。本社、各支店がそれぞれ独立した人事労務管理を行っており、社会保険手続き等も各々でなされている場合は、さしあたり各事業場(店舗)ごと300人以下か否かで適用対象か否か判別するのが現行実務に沿ったもののように思われますが、「企業」概念からみて違和感も生じるところです。この点について、厚労省がさらに踏み込んだ解釈運用を示す可能性があるかどうかが大変、注目されるところです。


 まず何よりも法案提出がされるのか、提出されたとして通常国会で可決成立するか。何らかの修正が国会において入るのかどうか。いずれも現状の情勢から見ると全くの未知数といえますので、当分は模様眺めが続きそうです。

2012年1月1日日曜日

新年のご挨拶

新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。
なお今月から事務所の部屋番号が503号室に移動いたしました(旧501号)。その他、住所、電話番号、e-mail等は従前どおりで変更ございません。

皆様にとって良い年でありますことを願っております。