2011年12月27日火曜日

選定基準廃止と継続雇用の対象外(高年法改正案)

高年法改正案でどうもよく分からないのが、選定基準の廃止と健康状態・能力不足の社員に対する適用排除の関係です。現行では、労使協定で、健康状態・能力不足等の選定基準をあらかじめ設け、これに該当する者に対し高齢者雇用継続措置を講じない取扱いが容認されています。
 これに対し、今回の改正案では、厚労省(事務方)は「選定基準」の廃止を早くから打ち出しており、使用者側が強く反発していますが、これを受けてか、昨日の労働政策審議会で報告書素案として示されたのが、以下の内容です(報告書素案はこちら)。


現行の継続雇用の対象となる高年齢者に係る基準は廃止することが適当である。 

その際、就業規則における解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く)に該当する者について継続雇用の対象外とすることもできるとすることが適当である(この場合、客観的合理性・社会的相当性が求められると考えられる)。  


 2行目以降の文章をどのように読めば良いのか、理解に苦しむところです。そもそも選定基準廃止によって、再雇用制度導入企業は、60歳を超えて雇用継続を希望する労働者がいれば、会社側の承諾の意思表示を要せずとも、「再雇用契約」が成立するといえるのかどうか。また会社側が不承諾とした場合、これは「雇用契約成立」後における「解雇」の意思表示とみるのか、あるいは有期契約の雇い止めに係る判例法理と同様に「解雇権濫用法理の類推適用」の局面と見るべきかどうか。

 また同報告書素案において「継続雇用の対象外とすることもできるとすることが適当」と記載されていますが、これは立法によって、判例法理等を修正しようとする意図と見て良いのかどうか。そのような意図がなければ、当該記述は「解雇」又は「定年雇い止め」に対し、裁判所が解雇権濫用法理を適用する可能性が高い旨述べたものに過ぎません。「適当」云々は、今後の判例法理の展開を待つほかなく、同報告書素案において記述すべき事項ではないようにも思えるところです。

 いずれにしても、明日には最終報告書が取りまとめられる予定です(もしくは越年?)。同報告書を待って、この問題も深掘りして考えていきたいと思います。

2011年12月26日月曜日

有期労働契約の利用可能期間規制案について(労政審建議)

平成23年12月26日、労働政策審議会は「有期労働契約の在り方について」(建議 こちら)を公表しました。厚労省は同建議を受けて、法案要綱案を取りまとめ、審議会で答申を得た上で平成24年度通常国会に関係法案の提出準備を進める予定です。

 先日の拙ブログでも取り上げたとおり、同報告書において最も注目すべきは「有期労働契約の利用可能期間」規制を提案している点です。前回の分科会では、利用可能期間を初めとした具体的数字が示されませんでしたが、今回初めて具体的な数字が明らかとなりました。

 有期労働契約の利用可能期間 上限5年
 クーリング期間 原則6ヶ月(有期契約が通算で1年未満の場合は、その2分の1)

これを超過し、有期労働契約を反復更新した場合、労働者の申出によって、当該労働契約は無期契約に転換する制度が提案されているものです。

問題はまずいつ転換されるかですが、厚労省担当者によれば、有期契約が終了した日の翌日から、無期契約になるとの事。

 また無期契約に転換した場合、その労働条件等が気になるところですが、これについて前述の建議では以下の記述が見られます。
「別段の定めのない限り、従前と同一とする。」

 したがって無期に転換したとしても、必ずしも既存の「正社員」と同様の処遇にすることが義務づけられるものではなく、労働条件等は有期契約時と同一のものが引き継がれることが「原則」となります。ただ気になるのが「別段の定めのない限り」との留保です。これについては、実務的にも十分に検討を要する点と思われます。

2011年12月15日木曜日

有期雇用法制の動向(利用可能期間制限案 平成23.12.14労政審段階)

昨日(平成23年12月14日)、労働政策審議会労働条件分科会を傍聴しておりましたが、同会に「有期労働契約の在り方に関する論点(改訂」が示されました(こちら)。労使ともに同ペーパーに対する評価を留保しており、ここに記載されていることが審議会報告書、さらには法案化されるのか未知数です。その点を留保しつつも、同ペーパーには幾つか大変注目すべき記述が見られますが、特に重要と思われるのが、以下の利用可能期間制限に関する提案です。

 有期労働契約が一定年数を超えて反復更新された場合には、労働者からの申出により、期間の定めのない労働契約に転換させる仕組み(転換に際し期間の定めを除く労働条件は従前と同ーとする。)を導入することについては、雇用の安定や有期労働契約の濫用的利用の抑制という観点から、評価できるのではないか。
この場合、次のような論点について、更に検討を深める必要があるのではないか。
①利用可能期間は何年とするか。
②同ーの労働者と無期転換の対象とならない有期労働契約を再度締結することができるようになるまでの期間(クーリング期間)を設けるとすれば、どのくらいの期間とするか。
③適用除外を設けることとするか。
④利用可能期間到達前の雇止めの懸念について、どのように対応するか。
⑤制度導入後に締結又は更新された有期労働契約から、利用可能期間の算定を行うことでよいか。

 研究会報告の段階から、有期雇用の不安定への対応として、更新回数・利用可能期間に対する制限が対応策の一つとして提示されていましたが、その一方、利用可能期間満了直前の雇い止め・雇用不安の懸念も強く指摘されてきました。そのため私見では、今回の報告書には回数・利用可能期間制限は盛り込まれず、雇い止め法理の明文化に留まる(なお策定されるであろうガイドラインに注意すべき)と観測していましたが、厚労省の事務方は、かなり踏み込んだ素案の方向性を示してきたものです。

 案の上、経団連は同方向性に対して、一様に強い抵抗感を示しており、最終報告書に残るかどうかは未知数です(残るとしても、両論併記型になるのでしょうね)。またこの方向性を示すとしても、①〜⑤の具体的数字等を如何に設定するか。この点については、労働側も産業ごとの事情もあり、一枚岩ではないようです。時間的にも2週間を切っており、数字の結論を示すことは容易ではなく、「政省令に委任」「同決定に際して、労政審で再度検討する」といったところが、厚労省側が考えそうな着地点でしょうか。

 なお数字として①について、7年〜10年あるいは3年〜5年などが非公式の形で飛び交っておりました。また②については、3ヶ月あるいは雇用保険の給付日数などの数字も上がっておりましたが、いずれにしても今後の課題と思われます。事務方は昨日の段階では「黙して語らず」であり、労使双方の意向を今なお探っている様子です。


2011年12月3日土曜日

労働安全衛生法案の国会提出

昨日(12月2日)、「労働安全衛生法案」が国会に提出されました(こちら)。産経ニュースによれば、以下の観測記事が示されています(こちら)。

政府は2日、事業者に全従業員への医師によるストレス検査の実施を義務づける労働安全衛生法改正案を閣議決定した。与野党が切り離しを求めた全面禁煙か喫煙室以外での喫煙禁止を義務づける規定も盛り込んだため、成立は困難な見通し。法改正への意欲を示すため、当初の提出見送り方針を転換した。 

 今国会の会期末が12月9日、会期延長したとしても「派遣法案」の審議が優先されるため、いずれにしても今国会での成立は困難で、来年の通常国会に持ち越しになるのが必至というところでしょうか。