2011年10月31日月曜日

「強制労働」(労基法5条違反)の立件に思うこと

今朝の読売新聞ニュースに以下の記事が掲載されています。


「逃げたら殺す」強制労働容疑で男2人を逮捕



山口県警柳井署は30日、、建設業●○(49)、土木作業員●△(46)の両容疑者を労働基準法違反(強制労働)容疑で逮捕した。
 発表によると、2人は共謀し、昨年12月30日と今年4月1日、離職しようとした福岡県内の男性土木作業員(41)に対し、頭を殴るなどの暴行を加え、「逃げたら追いかけて殺す」などと脅し、複数の土木工事現場でそれぞれ約3か月間と約40日間、労働を強制した疑い。2人とも容疑をほぼ否認しているという。(2011年10月31日07時40分  読売新聞 一部固有名詞を伏せ字に) (こちら

 労基法5条(強制労働の禁止)などは普段、紐解く機会がないのですが、まだまだこんな事件が日本で生じることがあるのですね。
 それはさておき山口県警が労基法違反の容疑で逮捕した点は、色々と検討の余地があろうかと思われます。被害者の申立(告訴かもしれませんが)では「逃げたら追いかけて殺す」と言われたとの事。同事実関係が認められれば、労基法5条違反の立件は容易だと思いますが、気になるのが被疑者側が「ほぼ否認」している点です。被疑者が頭を殴った事を認めている一方、上記供述を完全に否認している場合、労基法5条違反での立件が可能かどうか懸念が生じます。

 厚労省コンメンタールを見ても「暴行があっても、労働の強制の目的がなく、単に「怠けたから」又は「態度が悪いから」殴ったというだけでは本条の違反は構成せず、単に刑法の暴行罪を構成するにとどまるとの事(厚労省「労働基準法 上」90頁(労務行政))。同供述が否認された場合、暴行行為の前後において、被疑者が「労働の強制」の目的で、不当に拘束する手段によって「労働の強制」に至らしめたことの立証を要することになります。同事案は「拘束期間」が長いため事実関係を丹念に洗っていけば、この点の立証も可能と思われますが、捜査に手間がかかります。

 それであれば、何故、警察が「暴行罪」ではなく、畑違いの労基法5条違反で立件したのか疑問が残るところですが、思うに罰則の重みがあるのやもしれません。労基法5条違反であれば、罰則は使用者に1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処せられる一方、暴行罪のみであれば2年以下の懲役又は30万円以下の罰金です。傷害罪を問えれば、労基法違反よりも重い罰則で問えますが、暴行後就労している事実からすると、傷害罪まで問うのは難しい可能性があります。
 報道に接し、つらつらと考えたことを備忘録として。

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