2011年6月24日金曜日

当事者にしか事実関係が明らかでない場合の調査(セクハラの社内調査)

 最近、お問い合わせが多い問題としてセクハラ(パワハラ)事案の社内調査があります。問題になる案件をみると、加害者が認めていたり、加害事実が現認されている場合は殊の外少なく、多くの同種事案は人事・ヘルプラインに相談が寄せられた段階では、事実関係が不明確です(まさに黒澤明監督「羅生門」の世界(芥川龍之介原作))。特に被害者・加害者とされる者のみが別室等にいた際に生じたとされる同種案件は、事実関係の認定が至極困難といえます。

 厚労省は精神障害の労災認定迅速化を目指して、検討会を精力的に開催していますが、同検討会のセクハラ分科会でセクハラの労災認定に係る分科会報告書の素案を取りまとめています(こちら)。

 同報告書の中でまさに上記困難事案に対する調査上の留意点が示されており、実務担当者に参考になる面があろうかと思われます。
「当事者にしか事実関係が明らかでない場合の調査 セクシャルハラスメント事案はその事実関係を当事者のみが知る場合も少なくなく、さらに事実関係を客観的に示す証拠がない等の事情により、行為者や一部の関係者がセクシャルハラスメントの事実を否認するものが多く見られる。事実関係が客観的に明らかでなく、当事者の主張に大きな相違がある事案の事実関係の把握は非常に困難を伴うものとなる。このような場合、次のような手法が有効である場合があることに留意すべきである。
・当事者の供述のほか、当時の日記、メモ等を収集し、それらの資料に基づき関連する出来事を時系列的に整理すること
・行為者及び被害者の主張を否定する関係者の聴取では、必要に応じ、具体的な情報を示しつつ、整合しない点の釈明を求めながら聴取を行うこと」

 やはり基本はこの留意事項のとおりでしょう(私自身も今までそのように回答してきましたし、困難案件に係る外部調査受任時は同スタンスで調査してきました)。とはいえ、上記留意事項は「言うは易く、行うに難し」です。同調査を行うには、相応の知識・経験(特に実戦経験)が必要となります。同種事案対応の経験が少ない人事・ヘルプライン担当者等には、かなり酷な調査対応であり、同調査に限って外部の専門家に依頼するケースが今後も増加する可能性が高いように思われます。

 なお同報告書には、セクハラの労災認定基準を見直すこと等が明らかにしていますが、これを見るとセクハラ発生後の会社側対応が業務上判断の重要な考慮要素とするなど、企業への実務的な影響が大きい見直しとなりそうです。今後の見直しの動向が注目されるところです(更に本検討会では、「労働時間数」の具体例を示すことが検討されており、こちらも重要)。

 来月7月19日(火)、産労総合研究所・日本賃金研究センター共催「メンタルヘルス予防策・ラインケア充実への解決策セミナー」に於いてケース別検討の講師を務める予定ですが、その際にも上記問題は取り上げるべき課題の一つとなりそうです(セミナー案内はこちら)。

2011年6月8日水曜日

節電に向けた労働時間の見直しQ&Aについて

 厚労省から「節電に向けた労働時間の見直しQ&A」が発表されています(こちら)。

 夏季の節電対応策として、すでに検討が進んでいる始業・終業時間の繰り上げ、変形労働時間制、計画年休導入に伴う疑義応答が示されているものです。概ね従来からの通達を整理したものといえますが、新たな見解が示されているものとして、変形労働時間制の中途変更・解消および子の養育を行う労働者に対する所定労働時間の短縮措置に係るものが挙げられます。複雑難解な制度が同質疑応答によって更に混迷を深めている感がありますね。
 

2011年6月7日火曜日

セクハラに対する懲戒処分と労災認定

 今朝の朝日新聞に以下の記事が掲載されています(asahi.comはこちら

山形労働局内、セクハラ7年間 05年発覚、3人懲戒

厚生労働省山形労働局(山形市)は6日、男性職員3人が7年間にわたって非常勤の同僚女性にセクハラ行為を繰り返していたとして、同日付で1人を懲戒免職、2人を停職12カ月と停職6カ月の懲戒処分にしたと発表した。懲戒免職の職員は自主退職したため処分が及ばず、退職金の返還も求めないとしている。

 同局によると、3人は山形県南部の公共職業安定所(ハローワーク)に勤めていた1998~2004年度、女性職員に所内のロッカールームや出張先などで体を触ったりキスをしたりするなどのセクハラ行為を繰り返したという。

 民間の職場などにセクハラの防止を呼びかける立場の労働局内でセクハラ行為が続いていたことについて、同局の宮野修総務部長は「行政運営への信頼を損ね、誠に申し訳ありませんでした」と謝罪した。


 セクハラ防止の指導を行う立場である労働局(ハローワークとはいえ、同じ労働局であることに変わりなし)でこのような破廉恥な事があったこと自体が大変恥ずかしい訳ですが、何よりも疑問に感じたのは、セクハラ行為の発覚と処分時期の大きなズレです。2005年段階ですでに同事態が発覚していたにもかかわらず、処分が2012年まで遅れた理由として、局幹部は「公務労災の判断を待っていたため」と説明している(朝日新聞報道)ようですが、理解に苦しみます。セクハラ被害に対する公務労災の問題と、局内の規律・秩序維持のためになされる懲戒処分は別個の問題であり、2005年段階で加害者が概ね事実関係を認めた時点で、懲戒処分自体はなされるべきであったと思われます(厚労省が策定したセクハラ指針においても、「 職 場 に お け る セ ク シ ュ ア ル ハ ラ ス メ ン ト が 生 じ た 事 実 が確 認 で き た 場 合 に お い て は 、 行 為 者 に 対 す る 措 置 及 び 被 害 を 受 け た 労働 者 ( 以 下 「 被 害 者 」 と い う 。 ) に 対 す る 措 置 を そ れ ぞ れ 適 正 に 行 うこと。」との記載あり(こちら))。

 懲戒免職相当の職員はすでに自主退職していることから退職金の返還を求めないという事ですが、この点などは批判を受けて当然ではないかと思うところ。

2011年6月2日木曜日

第106回日本経団連労働法フォーラムにおける講演について

 来月7月14日〜15日に開催される第106回日本経団連労働法フォーラムにおいて、「震災対応にかかる労働・社会保険の実務」のテーマで講演させて頂くこととなりました(案内はこちら)。

 リスク分散・所得再配分の機能を有する社会保険・労働保険制度は、震災という不可抗力の事故に対し、どのような役割を果たすべきであるのか。この問題意識を持ちながら、使用者側の視点で雇用調整助成金、雇用保険、労災保険および社会保険料免除等の現状と実務上の課題・対策を分かりやすく解説したいと考えております。

 私の報告はさておき(もちろん最善を尽くします!)、同フォーラムは14日の「震災時の人事労務管理と労働法」(中井智子弁護士)、翌15日の「高年齢者の雇用をめぐる問題と今後の課題」(延増拓郎弁護士)のご報告と各討議、中町誠弁護士の講演「労働組合法上の労働者性に関する最高裁判決の解説および企業実務上の法的留意点」が予定されており、例年同様、大変に充実しています。私も両日、会場に詰めて先生方の講演・討議を拝聴するのが楽しみであるのですが、自らの報告が終了するまで肩の荷がずっしりと重いところ(TT)。