2011年5月22日日曜日

非正規雇用の社会保険加入要件拡大案について

 労務事情5月15日号の連載拙稿「労働行政&労働法制の潮流」(こちら)でも簡単に紹介しましたが、政府は「税と社会保障の一体改革」に非正規雇用の社会保険加入拡大を盛り込むことを検討しています。その加入要件について、厚労省が叩き台案を示してきたようです(共同通信5.22 こちら)。

非正規労働者の加入要件緩和へ 厚生年金で厚労省検討

 厚生労働省は21日、パートなど非正規労働者の厚生年金への加入要件を大幅に緩和する検討に入った。雇用保険の加入要件を参考に(1)労働時間が週20時間以上(2)勤務期間が31日以上―の2点に絞り込む方向で、収入を要件に加えず、中小企業に勤める人も含めることを検討する。少なくとも100万人以上の非正規労働者が厚生年金に加入でき、さらに増える可能性もあると試算している。

 また、保険料の基準となる「標準報酬月額」の下限(9万8千円)を引き下げることも同時に検討。保険料負担を軽減し、払いやすくする。ただ、加入拡大には、経済界からは懸念の声があり、調整は難航する可能性がある。


 ところで平成21年7月に衆院解散に伴い廃案となった法案(閣法)では、非正規雇用の適用拡大要件を以下の通りとしていました。
① 労働時間が週20時間以上
② 賃金水準が「月額98000円以上」(賞与、通勤手当、残業代含まず毎月支給額)
③ 勤務期間が1年以上であること
④ 学生は適用対象外
⑤ 従業員が300人以下の中小零事業主は当面猶予

 これが先の検討案によれば、②の収入要件をなくし、③を31日以上と大幅緩和するものとの事(④は不明ですが、雇用保険では学生を適用対象としている関係から同じ取扱いとなる可能性有り)。更に⑤についても当面の適用猶予を行うか定かではないものです。

 企業とりわけ非正規雇用の比率が高いサービス業への影響は大きく、今後の動向を注視する要があります。

【追記】5月23日夕方から開催されている政府の社会保障改革に関する集中検討会議において、厚労省から以下の資料が配付されています。同資料の7pに非正規雇用の社会保険加入要件拡大案が示されています(こちら)。

 また朝日新聞報道によれば、管直人総理が社会保障改革の重点検討課題の一つとして、本問題を取り上げるよう指示したとの事(こちら)。

非正規社員への社会保険適用拡大など検討指示 菅首相
2011年5月23日11時28分

 6月末に取りまとめる消費増税と社会保障の一体改革に向けて、菅直人首相は、正社員ではない非正規労働者に対する社会保険の適用拡大など3分野を重点検討事項として指示することを決めた。23日夜に開かれる「集中検討会議」(議長・菅首相)で表明する。

 3分野はこのほか、幼稚園と保育所の機能を併せ持つ「こども園」創設など子育て支援強化と、医療、介護、保育などのサービス利用時の自己負担の総額に上限を設ける「総合合算制度」(仮称)の創設。

 社会保障は、費用全体の7割を占める高齢者に重点が置かれている。そこで菅首相は、今回の一体改革で「全世代対応型」にかじを切る方針。3分野への重点指示で、就労や子育てなど現役世代に対する支援に加え、低所得者対策に力点を置く姿勢を明確にする。

2011年5月18日水曜日

求職者支援制度の成立について

 先週末(5月13日)、国会において改正雇用保険法案とともに、求職者支援制度(職業訓練の実施等による特定求職者の就職の支援に関する法律案)が成立しました(議案情報はこちら)。

 すでに平成21年度から緊急人材育成支援事業として、同制度の原型となる職業訓練および訓練期間中の生活給付が「基金事業」として先行実施されてきました(こちら)。しかしながら、同制度は臨時的な措置であり、今回の法律案成立によって、初めて制度が恒久化された事になります(法施行は本年10月1日)。

 制度の概要については、こちら。また制度内容の素案については審議会資料のこちらが詳しいものです。

 今後、雇用情勢に懸念が強まる中、同制度恒久化が失業者の生活保障と就職促進に大きな役割を果たすことが期待されるところです。

経営法曹会議等「労働法実務研究会」での報告

 先週末(5月13日)、経営法曹会議・東京経営者協会共催「労働法実務研究会」において、以下のテーマでご報告と研究討議に参加させていただきました。

 「個別労使関係において弁護士・人事担当者が直面する税務・社会保険の諸問題」

社会保険パートを私、税務パートを旧知の幡野利道税理士が担当したものです。私の方からは、主に割増賃金の遡及払い、解雇トラブル時の社会保険料問題、さらにリハビリ復職と傷病手当金の問題等について報告させていただきました。

 会場には100人近い弁護士の先生方と人事担当者等がお越し頂いており、大変に緊張しましたが、第一東京弁護士会の伊藤昌毅先生の的確な司会・進行のもと、山中健児先生、小鍛治広道先生から適宜、適切有益なご質問(時にはフォロー)を頂きつつ、何とか講演・研究討議を務めおおせました。レジメ資料の準備段階から当日の発表後打ち上げまで周到なご指導・ご助言を賜りました伊藤先生、山中先生、小鍛治先生、そして幡野先生に改めて感謝申し上げる次第です。また普段からお世話になっている先生方を講演席からお見かけし、大変心強い思いを致しました。後日、改めてご指導頂きますよう、よろしくお願い致します(笑)。

 報告・研究討議内容につきましては、後日、経営法曹研究会報に掲載されますが、今から講演録のゲラ直しに頭の痛いところです。
 

2011年5月3日火曜日

加害企業がユッケ販売禁止を求めるの愚

 今まで韓国料理店等でユッケを好んで食しておりましたが、北陸地方の焼肉チェーン店による食中毒事件(もはや業務上過失致死事件と見るべきでしょう)には大変ショックを受けております。まずは子供に食べさせるべきものではない事を改めて再認識させられた次第ですが、同チェーン店社長の弁を見て、大変憤りを感じた事がありました(yomiuri online記事はこちら)。

(中略)
対応していた石野浩平・マネジャーに対し、厚生労働省基準の「生食用」ではない加熱肉をユッケとして提供していたことに質問が及ぶと、勘坂社長が突然、会見場に現れた。

 勘坂社長は何度も頭を深く下げては、「被害者を全面的に最後までケアしたい」「できることは一つしかない。経済的な支援を踏まえ、アフターのフォローをしたい」などと被害者への対応を神妙に語った。

 一方で、資料を見ながら、「生食用として市場に流通している牛肉はありません」と大声を上げ、厚労省に対し、基準を満たしていない肉をユッケなどに使うことを法律で禁止すべきと訴えた。


 この段になって、お上が法律で禁止していないから、食中毒事件を起こしてしまったとの趣旨にも取れる発言をするとは・・・。安全な食品を提供することは、飲食事業を営む事業者に本質的に求められる事であり、加害者自身が国の法律規制云々を取りざたすること自体がナンセンスに思えるものです(これに対して被害に遭われた方が同社とともに厚労省の監督責任を追求される事は当然です)。