2011年3月12日土曜日

大震災と企業の実務対応ー有益な参考資料のご紹介

 昨日午後、東北太平洋沖大震災が発生し、今もなお余震が続いております。同震災によって、大きな被害を受けた方々に心よりお見舞い申し上げます。私自身は事務所、自宅ともに無事でしたが、あれほどの地震に遭遇したことはなく、大変に驚きました。まずは何よりも家族と自身、そして近隣の安全が重要です。

 同大震災に直面し、企業各人事労務部門は目下、震災地域における人命救助・安否確認のところと思われます。またライフラインに携わる業種については、事業継続、物流維持等、大変困難な課題に直面しておられるのではないでしょうか。

 これについて内閣府が「阪神・淡路大震災」の教訓・資料をまとめた貴重な情報を以下HP(阪神淡路大震災教訓情報資料集)においてUPしており、今後の企業実務対応の際、大変参考になるものと思われます。(こちら)。

 詳細についてはぜひ上記HPをご覧いただくとして、私自身がさしあたり示唆を受けたものとして以下のものがあります。

●企業の緊急対応(こちら

特にライフライン(小売流通)維持について、胸にひびいたのが次の記述でした。

◆[引用] (震度7エリア企業・食料・物資供給担当者ヒアリング結果)緊急対策本部が各店舗に出した「速やかに生活物資の供給を再開せよ」という指令が届くのを待つまでもなく、各地域では既に職員の判断で、潰れた店にもぐり込んで食料を引っ張り出してきては、店の駐車場に戸板を敷いて並べて供給を開始していた。しかもそれは、必ずしも店長の指示によるものではなく、パート職員などの判断で始めた場合も多い。職住近接や危機管理のあり方が言われてはいるが、店長の立場にいるような職員は、郊外に住んでいる傾向がある。一方、パート職員は店の近くに住んでいる方が多いため、その方々を中心に、各々の現場で「誰のために何をしなければならないのか」を判断をして供給活動が開始された。当団体が生活物資の供給を早期に再開したことは、地域の被災者の不安を解消することにかなり役立ったと思う。[『平成10年度防災関係情報収集・活用調査(阪神・淡路地域) 報告書』国土庁防災局・(財)阪神・淡路大震災記念協会(1999/3),p.16]

●食料・救援物資の供給について(こちら

 今回の大震災においても、交通網が寸断されており、被災地への食料・救援物資の供給体制が懸念されます。神戸の地震の際には、全国から救援物資が届けられるものの、物流が混乱しており、被災地への供給が円滑に進まなかった事が記憶に新しいものです。これについて先のHPでは、物流担当者から貴重な改善策が示されていました。


◆[引用] (関西周辺地域業界団体・物資輸送担当者ヒアリング結果)阪神・淡路大震災の場合、物資の集結場所を神戸の消防学校に設定したが、被災地の道路が閉塞した状況の中を大型トラックで搬送することになり、また集結場所には荷物をトラックから上げ下ろしするための機材や人員がなかったため、物資を運ぶプロであっても被災地の真ん中に集結地をもってこられると活動しにくい。集結場所にトラックが集中してしまったら身動きが取れない。被災地の真ん中に物資の集結地を持ってこずに、被災地の周辺部に物資を集結するようにすれば、全国から届けられた物資もそこで仕分けもでき、混雑の影響も少ない。そのためには、物資の集結地を被害の少ない周辺の自治体に設定して、そこから被災地へ輸送する計画を作る必要があるが、各自治体の調整が難しい。しかし、被災地での混乱を少なくするためには、緊急物資の仕分けは、被災していない地域で行い、そこから被災地の避難所や目的地に輸送するシステムづくりが必要である。また、仕分けや配車の手配をするプロが被災地の目的地にいないことがあった。荷物ターミナル等で行う仕分けの方法を用いないと、とてもさばけない。プロに任せる体制が必要である。特に、大量の物資を運ぶ場合に、それをさばくプロの手が重要となる。最終的に届ける必要があるのは避難所であるが、今回の災害の場合、取り敢えず市役所なりその近くに運んだ。協会に輸送を頼む時には、どこそこの避難所に何人分というように依頼するとスムーズにいくのだが、被災地でも情報がつかめなかったという問題があった。...(中略)...人海戦術では対応できない状態であったので、フォークリトを現地事業者から調達し、作業を行った。途中から車の燃料もタンクローリーを手配した。[『平成10年度防災関係情報収集・活用調査(阪神・淡路地域) 報告書』国土庁防災局・(財)阪神・淡路大震災記念協会(1999/3),p.56-57]

●雇用上の問題(こちら
 また人事労務分野においても、今後様々な課題が生じることが懸念されますが、神戸大震災の際には、特例の雇用調整助成金と失業給付が大きな役割を果たしたようです。しかしながら、上記HPにも指摘されているとおり、短時間(週20時間未満)のパート・アルバイトは同対象から外れる等の課題が生じています。近年、雇用保険の被保険者資格は広がっていますが、週20時間という基準自体は今なお変更ありません(雇用見込みが「1年」から「31日」(現行法)に短縮)。まだ先の話になりますが、厚労省には雇用調整助成金の特例措置を含め、可能な範囲内で柔軟な対応を検討して頂きたいところです。なお以下記述によれば、神戸大震災時、適用対象であるにもかかわらず、雇用保険未加入であった労働者について、ハローワークは遡及適用・失業給付支給を認めています。今回も同様の対応を講じることが期待されます。

◆[引用] 一週間後の一月二十三日には、やむを得ない休業で従業員の雇用維持を図る事業主に賃金等の助成をする雇用調整助成金制度の特例措置がはじまった。事業所の休業や一時的離職であっても失業給付の支給を行う特例制度も、同日通達され、一月十七日までさかのぼって適用された。前者は、一年ごとに更新され九八年一月二十二日までの三年間で、一万九千三百七十四件の事業所、対象者数は五十九万二千六百八十五人、後者については九六年一月十六日までの一年間で、一万四百七件の受給資格決定がされた。[『阪神・淡路大震災10年 翔べフェニックス 創造的復興への群像』(財)阪神・淡路大震災記念協会(2005/1),p.156]☆

◆[引用] 法律相談の中で指摘されている問題点は、「雇用保険未加入者が多い」ことで、雇用保険が義務化されている企業においても、未加入のまま労働していた雇用者がかなりいたということである。これらの相談者に対しては、未払いの保険料を支払うという遡及条件で、失業給付を支給するといった柔軟な対応も実施されている。その中でとくに指摘されている問題点としては、「パート労働者、零細自営業者およびそこで働く人たちなど雇用保険法の適応を除外されてきた弱者への救済措置、適応対象者についても、さらに雇用保険の柔軟な
運用(未加入者への遡及適応など)と特別措置の延長などを含めた対応が求められている。」(連合兵庫「なんでも相談報告書」1995年12月p.33)と述べられている。後者については、弾力的運用、支給期間の延長が特例措置としてとられたわけだが、前者の雇用保険法適用除外者の問題は、残されたままである。[下﨑千代子「多様なワークスタイルづくりを通じたしごとの創造等、しごと・雇用対策」『阪神・淡路大震災 復興10年総括検証・提言報告(5/9)


まずは参考資料の簡単なご紹介にて。
 

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