2010年4月30日金曜日

「アモーレと労働法」松下PDP最高裁判決評釈に対する雑感

 労働法関係で愛読しているブログの一つに神戸大の大内伸哉先生のブログ「アモーレと労働法」があります。 労働法関係はもちろん映画評、読書評を大変、楽しみに拝読しているのですが、本日のブログ(こちら)では、大内先生が松下PDP最高裁判決の評釈をジュリストに掲載する準備を進めておられることが綴られております。その同ブログの最後ですが、次のような謎が出されました。

「ところで,3月の東大の研究会で,この事件を報告したとき,私が見たところでは,どの解説でも指摘されていなかった論点がありました。判決が会社に損害賠償責任を認めた理由として,原告が労働局に偽装請負の申告をしたことに対する報復目的があるのですが,それなら,雇止めはそもそも無効となるのではないか,という点です。立教大学の竹内(奥野)寿君(括弧内は結婚前の旧姓です。クリス・エバート・ロイドみたいですね)が指摘してくれました。私は無効とならないと考えていますが,では,私はどういう理由をあげたでしょうか。その答えは,ジュリストの掲載号(何号か知りません)を御覧下さい。」

 この謎については、拙ブログにおきましても、以前に次のような回答を仮案として出したことがあります(こちら)。大内先生のジュリスト評釈による「謎解き」が今から楽しみであります。

2010年4月27日火曜日

「個人業務委託・請負をめぐる法的問題と企業実務対応」セミナー無事終了

 昨日、三鷹において標記セミナーを開催いたしました。参加者の皆様には、お忙しいところお越しいただき、誠にありがとうございました。

 同セミナーでは、冒頭にある裁判例を紹介し、請負・業務委託に伴う法的リスクの所在について確認いたしました(同関連拙稿はこちら)。この法的リスクとは、労働者性に他なりません。企業が当初、請負・業務委託と考えていたとしても(契約上その形を取っている)、労働法規が適用されるべき「労働者」か否かは実態に応じて判断されます。従って、同実態が裁判例・行政解釈に照らして「労働者性」が認められる場合は、請負・業務委託者も「労働者」となり、様々な労働法規上の保護を受けることになります。
 この法的保護の中には労働時間規制、賃金支払いルールの適用、労災・社会保険適用はもちろん、割増賃金請求も当然に含まれることになります。この結果、「業務委託」と思い込んでいた(故意・過失関わりなく)使用者は、後日遡ってこれら労働法規を守る必要が生じ、高額な割増賃金請求、雇用保険・社会保険料の被用者負担分納付などの問題が生じうるリスクをはらんでいます。

 昨日のセミナーではこれら問題状況(その他、団体交渉問題有り)の概要を説明の上、厚労省「個人請負型就業者に関する研究会報告」を読み解き、今後の厚労省の施策動向について解説させていただきました。終了後大変、有意義な質疑応答を頂き、私自身の考えも深まった気がしております。
 今後も継続して同テーマに取り組み続ける要がありそうです。
 

2010年4月26日月曜日

むれてまどわす

 井の頭公園内にある自然文化園の展示物から。

    「むれてまどわす」。


 思わずうなってしまいました。色々と人事労務分野においても同じような問題があるような気が(笑)。








2010年4月23日金曜日

管理監督者問題(日本マクドナルド事件)と菅野「労働法(第9版)」

 思い起こしますと一昨年、日本マクドナルド事件東京地裁判決において、店長の管理監督者性が否定され、企業実務にも大きな衝撃が走りました。

 その後、一部行政指導等の中には、同東京地裁判決を根拠に、管理監督者たるものは全社的な経営に関与していなければならず、店舗などの組織をいかに労務・経営管理していても管理監督者にあたらないとするものが散見され、大変強い違和感を感じておりました(以前述べたブログはこちら)。同判決の規範部分に対する批判的検討として、拙「ファーストフード店店長の管理監督者性」(季労222号)、峰隆之弁護士著「管理監督者問題とは何か」(労働法学研究会報2432号)などがありますが、少数説の感がありました。

 これに対して、今回の菅野「労働法(第9版)」では管理監督者問題に対して、相当に踏み込んだ記述がみられます(p284以下)。特に以下部分に大変刺激を受けました。
 「近年の裁判例を見ると・・・これを企業全体の運営への関与を要すると誤解しているきらいがあった。企業の経営者は管理職者に企業組織の部分ごとの管理を分担させつつ、それらを連携統合しているのであって、担当する組織部分について経営者の分身として経営者に代わって管理を行う立場にあることが「経営者と一体の立場」であると考えるべきである。そして、当該組織部分が企業にとって重要な組織単位であれば、その管理を通して経営に参画することが「経営に関する決定に参画し」にあたるとみるべきである」。

 その上で菅野先生は日本マクドナルド事件の結論については、注22において「店長の権限と役割からは、店長の業務にのみ従事しているのであれば十分に管理監督者と認められえたが、シフト・マネージャーの業務が加わったことによって、労働時間規制を適用除外するには不適切になったと思われる」 とします。

 菅野先生の明快かつ周到な記述に及ばないにしても、日本マクドナルド事件東京地裁判決に対する見解自体は前述の拙評釈も比較的近いものがあると思われ、私的には大変勇気づけられました。峰論文と比較すると、更にその近時性を感じました。

 いずれにしましても、同菅野先生の記述を受けて、判例法理等において、管理監督者の判断基準が明確かつ妥当性を有し、何よりも予測可能性が高いものとなることを願います。 

2010年4月21日水曜日

菅野和夫「労働法(第9版)」を読む1

 菅野和夫先生著「労働法」(弘文堂)の第9版が先日、出版されました。巻末を見ますと、初版が昭和60年。私が学部時代に手を取り、学部演習・試験および公務員試験勉強のために精読していたのが第3版。公務員時代が第4~5版、大学院で修行していた時が第6版~第7版。色々と思い出の尽きない書籍です。

 さて今春出版された第9版。はしがきで述べられているとおり、本改訂は新たな立法のフォローに留まりません。まず「労働者派遣、労災補償、労働者や使用者の概念、等々にわたる裁判例の動きも見逃しがたい。今回の改訂は、・・判例に生じている発展をフォローし、本書を最新のものにすることが第1のねらい」とされます。

 まさに松下PDP事件、脳心臓疾患・精神疾患の業務上外認定をめぐる裁判例、および新国立劇場事件などの労働者性に係る最新裁判例について、菅野先生のコメントが本文あるいは注に述べられている点がまず大変に勉強になるところです。

 その他、個人的に大変刺激を受けていますのが、「管理監督者問題」、「就業規則の不利益変更と労働者の個別同意との関係」に係る菅野先生の新記述です。これにつきましては、また後日。いずれにしましても、すでに第8版をお持ちの実務家の方々も、仕事で労働法に接する機会があれば、第9版を購入しておくことをお勧めいたします。

2010年4月20日火曜日

うつ病チェック、企業健診で義務化へ

 今朝(4月20日)のasahi.comに「うつ病チェック、企業健診で義務化へ 厚労省方針」が掲載されています(こちら)。

 厚労省労働安全衛生部担当者は法令改正が必要か、省令改正で対応しうるのか今後検討するとコメントしていますが、いずれにしても今年中には、専門家研究会および労働政策審議会安全衛生分科会で同問題が審議される事になるのでしょう。

 その際、間違いなく大きな論点となるのが、労働者本人の個人情報保護の問題です。メンタルヘルス疾患に係る健康情報は個人情報の中でも保護の優先順位が極めて高いものであることは論を待ちません。これを既存の労働安全衛生法における定期健康診断項目にそのまま追加すると、同情報が本人同意なく事業主がこれを把握することになります。事業主としては、同情報を基に労働安全衛生法・安全配慮義務による就労制限などの措置を講じやすくなりますが、労働者の中には、同情報を事業主に知られたくないというケースも想定しえます。

 現に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」策定にあたり、重要な基盤となった研究会報告書(職場におけるメンタルヘルス対策のあり方検討委員会)においても、個人情報保護の観点からメンタルヘルスチェックに際し、本人から同意を得ることなどが指摘されています(こちら p24以下)。

 労働安全衛生法の改正によって、労働者本人の同意を不要とするのか、あるいはメンタルヘルス情報の性質に照らして、他の健診項目と異なる取扱いとするのか。今後の研究会・審議会等の議論を見守る要がありそうです。

 

2010年4月19日月曜日

過労死訴訟ー障害を考慮し労災認定

 先日、名古屋高裁において、国の労災不支給決定処分が取り消される判決が出され、マスコミにおいて大きく報じられています(こちら)。

 判決文をまだ見ておりませんので同判決の規範とその射程などをまだ評価できませんが、今年6月に筑波大学の判例研究会で報告を予定している高裁判決(福岡高判平成21.5.19)と規範定立の面で類似性があるように感じています。

 労災認定における業務起因性と被災労働者の個体的要因との関係をどのように考えるべきか。また民事損害賠償請求において求められる使用者の予見可能性と労災認定の過重負荷との関係性はどうか。この設問自体の適否を含めて、6月までに検討を深めておきたいと考えています。私にとって大きな宿題です。

2010年4月17日土曜日

映画「sweet little lies」

 好き嫌いがはっきりと分かれる作品のように思われます。中には主人公である夫婦の描き方が理解できず、不愉快に感じる方もいるやもしれません。私自身はというと、好きです、こういう作品。同夫婦像を少し抽象度を上げて見てみると、同作品の世界観がなにがしら理解できる気がしています(同作品の公式サイトはこちら)。



 映画の世界観に対する好き嫌いはさておき、何よりも主演女優の中谷美紀が素晴らしい。中谷美紀の憂いのある表情を見るだけで、十分に価値ある作品ではないかと思っています。

2010年4月16日金曜日

改正労働者派遣法案の審議入り

 いよいよ本日(4月16日)、午後からの衆院本会議において、改正労働者派遣法案が審議入りするようです(日経ニュース)。

 本通常国会の会期は6月中旬までありますので、かなり余裕を持った審議入りといえるのではないでしょうか。このまま順調に審議が進めば、同改正派遣法案は5月~6月中には成立・公布される可能性があります。

 その場合、登録型派遣、製造業派遣の禁止はさておき(公布から3年以内が施行予定)、その他の重要改正点である「みなし雇用制」などは、平成22年中に施行されることになります(公布から6ヶ月以内が施行予定)。

 先日の講演でも申し上げましたように、専門26業務適正化プランと「みなし雇用制」は密接な関わりがあります。同問題については、早め早めの情報収集と対応準備が不可避と考えます。私自身も前倒しで研究を進める要を感じております。

新たな人事労務部門の課題ー海外委託先等の国際労働基準遵守

 今朝のNEWSで次のような報道を見ました(M社からの製造委託工場における未成年労働者酷使(こちら))。
企業が国境を越えて事業展開していく動きは、今後更に強まるものと思われますが、海外進出に伴い様々なリスクが生じ得ます。その一つとして、今後懸念されるのが、児童労働禁止などの労働基準違反です。

 今回の報道のように、いつ何時、海外委託工場において、児童労働などが問題化し、現地受託会社のみならず発注会社にその責任追求(法的もしくは道義的)がなされるか予断を許しません。

 またISO26000(組織の社会的責任に関する国際ガイダンス規格)が今年9月にも発行される見込みです。今年の秋以降、グローバル展開している企業においては、新規格への対応と併せて、海外進出先の国際労働基準遵守の点検が大きな検討課題になっていくものと思われます。

 企業の人事労務部門に求められる機能・責務が更に広がっていきそうですね。引き続き注目していきたいと思います。

2010年4月15日木曜日

「専門26業務適正化プラン」講演について

 昨日、「専門26業務適正化プランと改正派遣法の動向」というタイトルで講演させていただきました(こちら)。100名以上のお申し込みを頂いていたようで、大変盛況でした。講演にお越しいただきました企業・労組等のご担当者様に感謝申し上げます。

 昨日の講演では、まず新たに示された事務用機器操作・ファイリングの定義とこれに伴い重要である「付随業務、付随的業務」について解説いたしました。その上で、「付随的業務」が伴う場合のルールとこのルール遵守のために厚労省側が勧奨している実務対応手法、さらには同プラン以降の監督指導事例(プレス発表分)、さいごに改正派遣法案との関係性についてお話をさせて頂いた次第です。

 講演させていただき、改めて感じましたのが、厚労省が定める専門26業務の定義(とりわけ事務用機器操作、ファイリング業務)と実際の派遣受け入れ現場との間の大きなギャップです。以前からその問題は指摘されていましたが、厚労省側の定義自体(業務取扱要領)が曖昧かつ時代遅れ(事務用機器の例として、タイプライター・テレックスなどが挙げられている!)であったため放置されていた感がありましたが、これが同プランによって、深い眠りから覚めてしまったものです。

 同プランは集中監督指導実施を本年3月~4月としますが、厚労省はその後も継続して監督指導に取り組むとしており、派遣元はもちろんユーザー企業も同問題を看過することはできません。同問題対応のための情報収集、検討と対応を早めに取り組まれることをお勧めするものです。

 同問題につきましても、助言・指導、模擬監査等のサービス(スポット契約可)をご提供させていただいておりますので、お気軽にお問い合わせください(こちら)。
 

2010年4月14日水曜日

iPadのことなど






 iPadの発売日が近づいてきました。某所で一足早く販売されておりましたので、apple storeを覗いてみましたら、いやはや大変な盛況です。




 無我夢中でデモ機をいじる様子などは、万国共通でした(笑)。




 さて買うべきか、買わざるべきか。我が家の財務省(事業仕分け?)折衝はもちろん、手持ちのiPhoneへの仁義もあり、悩みがつきません。
(付記 2010.4.15) 今朝の朝刊にiPad発売延期の報が・・・。ロイターニュース(こちら)などを読みますと、色々と後悔の念がつのります(笑)。

2010年4月12日月曜日

「残業代請求権の放棄」と労働者の自由な意思表示

 先日、毎日JPで次のようなNEWSが報道されていました(こちら)。

 残業代未払い訴訟において、会社側が残業代の権利放棄がなされたと主張するケースがままありますが、これに対して同事案の従業員側代理人は、同権利放棄を誘導したものであり、違法無効との反論を行ったようです。

 「労基署を愚弄している」等のコメントが見られますが、それよりも法的に問題となるのは、同残業代放棄が労働者の「自由な意思に基づくものであることが明確であるのか」という点です(賃金債権放棄に係る先例として、シンガー・ソーイング・メシーン事件ほか)。同判断のポイントになるのが、労働者からの残業代放棄確認書提出までのプロセスですが、そもそも労働者が自らの残業代を放棄すること自体が不自然ですので、それを払拭するような合理的理由がありうるのか。

 同事案が判決で示された場合には、また改めて注目したいと思います。

2010年4月8日木曜日

サービス業における1ヶ月単位変形労働時間制の難しさ

 昨日の報道で、飲食店アルバイトに対する1ヶ月単位変形労働時間制の適用が否定された裁判例が報じられています(こちら)。

 報道によれば、同社では、1ヶ月単位の変形労働時間制を採用するものの、あらかじめ決定していたのは半月分のシフトに過ぎなかったようです。

 同変形労働時間制は特定日・週に法定労働時間を超過したとしても、対象期間を平均して1週40時間以内に収まる場合、労働時間規制(労基法32条)および割増手当規制(労基法37条)が適用除外される制度です。しかし、同変形労働時間制を導入する際には、あらかじめ対象期間の労働日、労働時間を特定することが求められています。上記事案は、まさにその点に不備があったようです。したがって、同判決は従来からの行政解釈・裁判例に沿うものであり、特に先例的意義はありません。

 サービス業においては、天候、商品の売れ行きその他様々な不確定要素によって、業務量が変動するため、あらかじめ1ヶ月単位で完全にシフト表を組むことが難しい実情があるように思われます。そのため、本件のようなサービス業において、1ヶ月単位の変形労働時間制の適用が全く不可能にも思われるところですが、一つの対応策としては、シフト表が組める範囲内(例えば半月、2週間など)を平均して1週40時間に設定する方法もあります。

 このように変形対象期間を短くすることによって、変形労働時間制を適用することも考えられますが、実はサービス業において更なる難問が残っています。それは変形対象期間内における労働日・休日・労働時間の変更です。同変形労働時間制は前述のとおり、対象期間内の労働日、労働時間の特定を求めており、同対象期間内の融通無碍な労働日・労働時間の変更を前提としていません。あまりに融通無碍に同変更を行っていると、労働日・労働時間の「不特定」を理由に、変形労働時間制が違法とされる恐れがあるものです(先例として、JR東日本(横浜土木技術センター事件) 東京地判平成12.4.27 労判782-6)。

 サービス業については、やはり1ヶ月変形労働時間制の導入は容易ではありません。サービス業向けの変形労働時間制としては、他に1週間単位の非定型的変形労働時間制(法32条の5)という制度があります。小売・旅館、料理店および飲食店において、30人未満の事業場が対象となる制度であり、1週間平均40時間以内に収まる場合は、特定日が10時間(上限)であっても、労働時間・割増賃金規制が適用されない制度です。また同制度の場合は、労働日、労働時間数の特定は同週間が開始する前に書面で行うことで足りる上、緊急でやむをえない事由があれば、前日までに特定日の労働時間を変更することも許容されています(則12条の5 3項)。事業場規模で対象になるサービス業であれば、導入検討する価値はあろうかと思われます。

  

2010年4月2日金曜日

「マイレージ、マイライフ」から見るアメリカ

 先日、米映画「マイレージ、マイライフ」を見に行ってきました(こちら)。監督のジェイソン・ライトマンは、前作(ジュノ)、前々作(サンキュー・スモーキング)ともに実におもしろく、本作も大変楽しみにしておりましたが、やはり期待どおりでした。

 ジョージ・クルー二ー扮するアウトプレースメント社社員(クライアント会社から依頼を受けて、解雇通告等を代わりに行う業務)が、似たもの同士の異性と出会うこと等を通じ、自らの人生に向き合うといった物語です。引きつけられるストーリー展開はもちろん、ジョージ・クルー二ーのあまりに格好良い出張ぶり(搭乗手続き、ホテルのチェックインのシーンは特にお勧め(笑))、あるいは飛行機の窓から眺めるアメリカの風景等が素晴らしいのですが、人事労務の見地から見ても、大変おもしろい映画です。

 ジョージ・クルーニーが解雇通告を行う際、まず言うのが「貴方の職務がなくなりました」。同通告を受けた社員は、その後の生活保障や不当解雇の疑い等について申し立てを行いますが、この「職務がなくなったこと」自体はあまり問題視していないようでした。

 日本の場合は、まずもって、「貴方の職務がなくなった」と言われれば、多かれ少なかれ「何か違う仕事に配転してくれ」「なぜその措置を検討しないのか」といった話になりそうです。そもそも解雇通告をアウトプレースメント会社社員に完全に委ねること自体も、日本ではまだまだ稀であるように思われます。

 同映画では、その後、リストラ宣告業務が更に「効率化」されようとしていきます。どのような「効率化」であるか、またそれがどうなるかについては、ぜひ本作をご覧いただければ幸いです(笑)。

 本作を見て、アメリカという国を見てみたくなりました。 

2010年4月1日木曜日

改正雇用保険法(平成22年度)におけるモラルハザードの懸念

 昨日(平成22年3月31日)、改正雇用保険法が成立しました。
同改正の概要についてはこちらをご覧いただくとしまして、同改正事項の中で腑に落ちない点を指摘しておきたいと思います。

それは「雇用保険に未加入とされた者に対する遡及適用期間の改善」です(こちら)。

 従来は雇用保険加入の対象労働者が未加入扱いとされていた場合、被保険者であったことが確認された日から遡及適用されるのが、2年間とされていました。この取扱いの結果、失業した労働者がいざ雇用保険を受給しようとする際、遡及適用される被保険者期間が2年限りとされるため、その所定給付日数が不当にも短くなるとの指摘がなされていたところです。

 本改正では、その点を改善し、事業主から雇用保険料を控除されていたことが給与明細等の書類により確認された者については、2年を超えて遡及(天引き確認された時点まで)される事となりました。

 失業労働者から見ると良い改善であることは間違いありませんが、その反面、雇用保険料納付の問題が残ります。同取扱いのケースにおいて、事業主は保険料を納付していません(なお2年遡及適用分については、事業主に未納保険料の納付が命じられるとともに、追徴金、延滞金の問題が生じます)。
 その点を放置してしまうと、2年遡及を超える部分の保険料については、このように考える事業主が出てきても不思議ではありません。「どうせ国が立替えてくれるのだから、雇用保険料については申告納付ともにしなくても良い」。いわゆるモラルハザードの問題です。

 これに対して、今回の改正では以下の措置を講じる(労働保険徴収法の改正)との事ですが、これが先のモラルハザード対応として十分か否か。その点が今のところ、私にはよく分かりません。

 遡及適用の対象となった労働者を雇用していた事業主のうち、事業所全体として保険関係成立届を提出しておらず、保険料を納付していないケースについては、保険料の徴収時効である2年経過後でも納付可能とし、その納付を勧奨する。

 まず同納付対象となるのが、「事業所全体として保険関係成立届を提出していない」と限定する点。この文言だけを見ると次のような悪質な事業主から遡及納付を求められないことになるようにも読めます。
(例)保険関係成立届は出す一方、一部の労働者について(例えばパート・アルバイトで週20時間以上30時間未満等)は、事業主独自の見解で被保険者資格取得届を提出しない。その上で同労働者からは保険料を徴収(給与から天引き)しているようなケース

 また「納付」を勧奨するという点からは、その強制力が伺えません。恐らくはすでに時効消滅しているものを、改めて使用者に納付を強いること自体が、法制上許されないという見地からの判断とは思われます。確かに過去分についてはやむを得ないと思いますが、本年4月以降の労働保険料については、異なる取扱いも可能ではないかと考えるところです。

 桜を見ますと、どうも「学生」に戻っていけませんが、以上私見まで。