2010年1月29日金曜日

労働法学研究会例会企画の思い出

 昨日、労働法学研究会例会に於いて「35協定をめぐる法律実務」について、講演いたしました。企業実務担当者の方が中心に、160名近くのお申し込みを頂き、大変盛況でした。誠にありがとうございます。

同例会については講師のほか、2006年9月から足かけ3年5ヶ月間ほどセミナー企画を担当してきましたが、残り4月予定分の例会2本をもって、企画担当から退くこととなりました(昨年5月からは業務委託契約で同企画業務を継続。本年4月企画分をもって契約終了との事)。

振り返ると3年5ヶ月もの間、毎月毎月、セミナー企画2本~3本を立て、講師の先生と打ち合わせの上、セミナー企画を詰めていく作業を行っていたことになります。例会本数でいえば2405回から2515回までの延べ100本以上(その他関西例会年間16回×3、有料セミナー等)を担当したことになりますが、我ながらよくこれだけ企画を作り続けることができたと思います(笑)。

例会2405回~2410回まで(こちら
 同 2411回~2443回まで(こちら
 同 2444回~2474回まで(こちら
 同 2475回~2507回まで(こちら)
 同 2508回~2515回まで(こちら

 これもセミナー講師を快く引き受けていただいた講師の先生方のお陰です。自らセミナー講師を務めるようになった後、改めて先生方のご尽力に気がつき、感謝申し上げる次第です。

 また何よりも、同例会にお越しいただいた参加者の方々には、並々ならぬご支援を頂きました。同例会は毎回10分~30分、必ず質疑応答がありますが、毎回毎回、活発な質疑等を頂き、企画者として、いつも嬉しい思いをしておりました。また思い起こせば、携わりだした当初は閑散としていた会場も年を追うごとに参加者の方が着実に増えていく様は、担当者として心強いものでした。


 今後の労働法学研究会例会の更なる発展を祈念しております。

 私自身も今後、何らかの形で、セミナー企画、司会進行など企画的な仕事に携われるチャンスを得られるよう、精進してまいる所存です。

2010年1月28日木曜日

平成22年通常国会提出法案の動向2(派遣法)

 先日、改正雇用保険法案が通常国会に提出されました(閣法)。法律案要綱などはこちらにUPされています。

 厚労省内に新たに設置された政策会議資料において、本通常国会に提出する法案が一覧で示されていますが、これを見ると、改正雇用保険法のほか、改正派遣法案、改正確定拠出年金法案などの提出を予定しているようです(こちら)。

 派遣法については、前回ご紹介のとおり、昨年末に審議会報告書(こちら)が示され、現在、同答申を基に厚労省が法案要綱案策定の準備に着手しているところです(同報告書についての解説はこちら)。

 登録型派遣および製造業務派遣の原則禁止が実務的に大変注目されている訳ですが、同改正法案には更に実務的に大きな影響を与える可能性がある改正案が含まれています。
 それは「違法派遣の場合における直接雇用の促進」です。同報告書では、以下のような記述が見られます。
「違法派遣の場合、・・派遣先が、以下の違法派遣について違法であることを知りながら派遣労働者を受け入れている場合には、違法な状態が発生した時点において、派遣先が派遣労働者に対して、当該派遣労働者の派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約を申し込んだものとみなす旨の規定を設けることが適当」とした上で、次の事項をみなし雇用の対象とします。

④いわゆる偽装請負(労働者派遣法の義務を免れることを目的として、労働者派遣契約を締結せずに派遣労働者を受け入れること)の場合

 この④がみなし雇用に含まれる結果、改正派遣法案は派遣のみならず、いわば「グレーゾーンの請負・委任契約」に対する規制を強化する方向で舵を切ることになります。
 確かに請負・委任活用が、派遣形態のものときちんと区別しておけば、同改正法案は請負・委任に対する規制強化につながる訳ではないのですが、実態を見ると、今なお派遣請負区分基準に照らし、現場で悩むケースが多いように思われます。
 本報告書を注意深く読むと、派遣先の「違法性の認識」をみなし雇用の前提としているため、偽装請負即「みなし雇用」にはならないと思われますが、この「違法であることを知りながら」の判断基準によっては、限りなくそれに近い運用がなされる可能性もあります(緩やかな解釈)。今後の国会審議等、さらには法案が制定された場合の施行通達等を注視する要があるものです。 

2010年1月26日火曜日

2月三鷹セミナーのご案内(改正育介法)

 本年1月から拙事務所向かいの三鷹産業プラザ会議室で、毎月セミナーを開催することとしました(年間予定はこちら)。来月2月については、2月18日(木)午後6時~8時から同会場にて「改正育児介護休業法への実務対応」をテーマにお話をする予定としております(こちら)。

 改正育児介護休業法は企業の実務担当者様もさほど気にしていない印象がありますが、実際に見ていくと実務対応上、留意すべき課題がいくつも浮かび上がってきます。同セミナーでは、その問題の確認と実務対応策の解説を予定しております。顧問先以外もご利用いただけますので、ご活用いただければ幸いです。なおホームページからもお申し込みいただけます(こちら)。

2010年1月20日水曜日

里帰りのことなど(改正育介法)

先週末、久しぶりに北海道大学社会法研究会に里帰りし報告をさせていただきました。

「改正育児介護休業法施行に伴う企業対応をめぐる法的課題」というテーマで、1時間ほど報告をさせていただいた次第ですが、やはり「生まれ育った」研究会はいいものです。

 道幸先生の的確なご指導、院生・会員同士のやりとりが本当に自由闊達で、ここで自分が育てられたことを実感させられました。どの程度、育っているかは疑問なしとしませんが・・(笑)。

 同日の議論で焦点となったのが、短時間勤務措置義務化の「権利性」、同制度の適用除外対象者を労使協定で定めることの可否、短時間勤務措置の希望者に対する配転の可否および復職問題でした。研究会の議論を通じて、大分問題が見えてきた気がいたします。


 
雪祭りの準備が始まりつつある大通公園の雪景色です。

2010年1月9日土曜日

来週の研究会報告(国・福岡東労基署長事件)についての頭の整理

 来週水曜日に研究会で報告を予定している「国・福岡東労基署長事件」(労判964-35)について頭を悩ませております。

 事案としては、ガソリンスタンドで現業職に従事していた中途入社社員が本人(父親?)の希望どおり、金融部門に配転されたのですが、共済等の新規営業開拓がうまくできない等から、配転2ヶ月未満で精神疾患に罹患、その後2ヶ月後に自殺し、その遺族が国に対して、労災遺族補償年金等の支給を求め提訴されたものです。国側は「同種労働者」から見て、業務による心理的負荷は業務上とするほど高くないと判断し、不支給決定処分としていましたが、福岡地裁がこの判断を覆しました(控訴も棄却され、地裁判断確定(上告せず))。

 いわゆる「過労自殺」の労災認定に係る法的紛争については、従来「長時間労働」が問題とされてきました。長時間労働に慢性的に従事してはいるが、精神疾患発症の6ヶ月前までに目立つ「出来事」がない事案について、労基署は「出来事」の心理的負荷が低いことを理由に不支給決定処分としてきたものです。しかし、これについてはT自動車事件控訴審等において、一定の判断が示される(不支給決定処分取消)とともに、判断指針が変更され、運用(出来事とこれに対する修正、出来事後の変化等に長時間労働の実態を加味することにより、評価を上げること可)によって十分に対応が可能となりました。現に近時の審査事案を見ると、審査会レベルで支給決定に転じる例が多数見られます(こちら)。

 これに対して、今回検討している事案は、長時間労働はさほど問題とされておらず(ただし所定時間終了後、本人が顧客回りを午後9時頃までしていた可能性はあり、この点地裁は一定程度評価)、焦点となった心理的負荷が、配転と年間目標、そして会社側の支援です。

 同地裁は、まず本件被災労働者について、もともと営業職の適性に欠けると断じた上で(この点の判断は、実務担当者から見て相当違和感を覚える気が・・)、本人が同意するものの適性に欠く金融業務に配転させたことが、まず業務上の心理的負荷が相当重いとするものです。また年間目標についても、同社では新人以外は同じ営業目標を掲げており、月額給与にもその達成度合いを連動させていませんが、適性に欠く社員に対する目標としては高すぎるとし、その負荷が極めて高かったとします。最後に会社側の支援について、一定の研修・OJTの実施を認めるものの、適性に欠く社員に対する支援としては不十分であるとし、以上からその業務による心理的負荷が極めて大と結論づけたものです。

 心理的負荷が過重か否かを判別するにあたり、「本人」にとって大であれば認めるのか、あるいは「平均的労働者」から見て大であれば認めるのか二つの考え方がありえます。これについて、厚労省は後者を採用しており、本地裁も後者の立場を取り、前者を取らない旨明言しています。

 では、この「平均的労働者」をどのように設定するのか。以前からこの点について争われてきましたが、本地裁判決は従来の裁判例に照らし、どのように位置づけられるのか。またその射程は如何なるものか。そして同判断を前提とすることにより、精神疾患の労災認定実務、企業の労務管理にどのような影響があるのか。

 ここが報告において、最大のポイントになるのではないかとうっすら考えておるところです。これをまとめるのが大変に一苦労ではありますが、労災法研究そして実務的にも大変、重要な問題と思われるものであり、もう少し突っ込んで勉強してみたいと思います。中間報告まで。

2010年1月8日金曜日

新年早々のお仕事(単行本出版の予定)について

 今年の年末年始は単行本ゲラ戻しのための作業等にせっせと取り組んでおりました。

 同単行本は、峰隆之弁護士との共著「改正労基法・育児介護休業法対応業務チェックリスト(仮題)」(2010.2予定、(株)日本法令)です。先日も峰先生とY町で充実した打ち合わせが行われ、その後、トルコの名酒「ラク」の杯が何度も空いた次第(笑)。
 日本法令の編集Tさんの素晴らしい仕事のお陰で、良い本に仕上がりそうとの思いを強めているところでございます。同書につきましては、2月初旬出版に向けて鋭意作業を進めております。

 労使の実務担当者から見て、両改正法対応にあたり最低限、押さえておくべき事項と規定・書式例等を簡潔に取りまとめた書籍(B5版)を目指しており、お値段も低廉な価格帯となりそうです。無事、日の目をみましたら、ぜひともお買い求めいただければ幸いです。

2010年1月6日水曜日

債権の消滅時効統一の動き(法制審)

 昨日、共同通信NEWSを何気なく見ておりましたら、目が点になりました。
「法制審、債権の消滅時効統一へ 民法改正で短期特例廃止」(こちら)。
 同報道において紹介されているとおり、現行民法では、会社員の給料については短期消滅時効1年と定められています。

 これを修正するのが、労基法115条であり、賃金その他請求権は2年、退職手当は5年という特別の短期消滅時効を定めているものです。

 これが先のニュースによれば、民法の短期消滅時効を3、4、5年に統一する方向で法制審が見直しに入ったとの事。同改正が成立すれば、労基法で定める短期消滅時効(特に賃金その他請求権)も見直しする必要があるやもしれません。

 賃金その他請求権の中には、労基法37条が定める時間外労働に対する割増賃金も含まれています。従来はサービス残業に対する遡及是正は過去2年までとされてきましたが、同改正の動向によっては、3年以上となる可能性もあります。

 民法(債権法)改正は実のところ、労働法、人事労務と密接につながっています。今後の動向を注視したいと思います。

平成22年通常国会提出法案の動向1(雇用保険法)

 昨年末、厚生労働省労働政策審議会および研究会は立て続けに報告書・建議を取りまとめています。これらの報告書・建議を基に、厚労省は法律要綱案を策定し、審議会での議論を経て、最終的に内閣が通常国会に閣法として提出することとなります。

 人事労務関係で重要と思われるのが、次の報告書、建議です。
雇用保険法関係(こちら
派遣法関係(こちら
労災関係(こちら) ※研究会報告書

 今回は改正雇用保険法に係る報告書を取り上げます。雇用保険法については、被保険者の適用範囲の更なる拡大(週所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用見込み)および雇用保険料未納の事業場に勤務していた被保険者に対する救済措置(2年を超えて保険料納付を可能とし、遡及期間を拡大等)が、実務的に一定の対応を求める改正点になりそうです(詳細については、すでにこちらで紹介。なお未納事業場に対する新たな制裁措置については、同報告書で特に触れられず。今後の運用動向を注視する要あり)。

 そのほか、同報告書を基にした改正法案が成立した場合、雇用保険実務の見直しが求められそうであるのが、雇用保険被保険者証の管理です。同報告書を見ると、雇用保険未加入者が生じる背景として、同被保険者証が従業員に対して適切に交付されていないことを指摘しています。その上で使用者に対して同証の交付を確実に履行させることとともに、従業員本人が保有しているか自ら確認することを促すよう、運用手続きについて必要な改善を図るべきとします。
 企業における現状の取扱いを見ると、雇用保険被保険者証を従業員本人に逐次交付せず、会社保管とし、退職手続きなど必要となる際に本人に交付する取扱いとしてきた例も多いように思われます。その理由を尋ねてみると、労働者の紛失防止など、従業員の便宜として同取扱いを行ってきた企業が大半と思われますが、先の報告書に基づき、法・政省令、施行通達等が改正された場合、運用の見直しを行う必要があります。もちろん現状においても、会社保管はあくまで「本人同意」が大前提であり、従業員本人が被保険者証の返還を求めれば、これに応じなければならないのは当然です。

 その他、実務的に注目されるのが、被保険者資格取得手続きの際に、同取得届に添付する書類の簡素化です。今回の報告書では、被保険者の適用基準に係る雇用見込み期間を6ヶ月から31日に短縮することから(週20時間以上は変わらず)、パート比率が高い企業によっては、雇用保険被保険者取得手続事務が急増する可能性もあります。このような事務負担に配慮して、今回の報告書では、雇用保険の被保険者資格届において必要とされる添付書類を簡素化するとしています。現行では、添付書類について、雇用保険被保険者証、労働者名簿、出勤簿(タイムカード等)および契約書もしくは雇用通知書(週20時間~30時間未満(詳細についてはこちら))とされていますが、改正法が成立すれば、このうちのいずれかの添付書類は簡素化されることとなります。詳細については、改正法案成立を待つ必要があります。

2010年1月5日火曜日

明けましておめでとうございます

 新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

 本年は非常に先行き不透明感が漂うところではありますが、非正規雇用問題(派遣、有期雇用)、業務請負、個人請負問題が例年以上に注目される年になると考えています。
 これらの動向も見据えつつ、本年度も顧問先ならびにお客様に価値あるサービスを提供させていただけるよう努めてまいります。よろしくお願いいたします。


 井の頭公園の眺望です。