2009年8月28日金曜日

労働審判制度の動向その他

 昨日は労働法学研究会例会「労働審判の実務マニュアルー労働者側代理人の立場から」(こちら)を聴講いたしました。講師の棗一郎弁護士に、大変丁重で分かりやすいご講演を頂き、労働審判に対する理解を深めたものです。

 講演の中で大変、印象的であったのは、労働審判を含めた裁判所への個別労働紛争事件の係争件数の推移です。労働審判制度発足までは、仮処分事件含めて年間3000件程度で推移していたものが、制度発足後、労働審判が急速に件数を伸ばすとともに、本裁判もさほど減少傾向をみせず、昨年度実績で5400件に達しています(最高裁行政局調べ)。今年度は不況の影響からか、更に伸びが顕著で、このまま推移すれば6000件の大台を超える可能性があるとのことでした。

 その順調な件数増加の要因は、何よりも労働審判制度の迅速性・簡便性・公平性が労使双方から高く評価されていることにあるようです。また昨日の講演で、勉強になりましたのは、労働審判制度の間口の広さです。労働審判は簡易迅速性が求められるため、労働事件の中でも複雑困難な事案は、同制度になじまないと指摘されていました。とすれば、管理監督者性や賃金制度(職務手当等の残業代みなし)の性格、あるいは配転出向、労災民事損害賠償請求などは、労働審判では一見、無理に見えるところですが、労働審判はこれらの法的紛争にも、相応に対応しているようです。

 労働審判については、仮処分・本訴訟と異なり、判決文が公刊される訳ではなく、その実態が第三者から見えにくい制度です。今後も労働審判制度の現状とその動向について、裁判所はもちろん、労使双方の弁護士の先生に、ぜひ定期的な情報公開をお願い致したいところです。
※その取り組みの好例として、菅野和夫監修 日本弁護士会連合会編「ジュリスト増刊 労働審判事例と運用実務」。この中に棗一郎先生の論文も掲載されております(こちら)。

追記
 昨日、濱口先生ブログに本ブログをご紹介いただきました。誠にありがとうございます。先日の問題に一言付け加えると、労働基準の履行確保手段自体は多様であるべきであり、その一つの方法としての公契約による監視は大変有効な策だと考えます。これに対して、新たな「労働基準」を地方自治体がどのように策定すべきであるのか、また国の基準との位置づけをどのように考えるかについては、議論がさほど尽くされているようには思えないため、思いつくままに若干の論点提起をした次第です。

2009年8月26日水曜日

市条例による第2の最低賃金規制?


 昨日、asahi.comにおいて以下のニュースが配信されていました。「最低賃金、市が決定 千葉・野田市、業務委託契約条例案」(こちら)。

 同報道によれば、野田市が以下の条例案を9月の市議会に提出することを決めたようです。

 同条例案では、野田市が業者と一定金額以上の公共工事、業務委託契約(※施設清掃・機器の保守管理等に限定)を締結する際、同受注業者は「市長が定める最低賃金以上の給与」を支払わなければならないとし、これに違反した場合は、契約の解除、損害賠償請求を行うことができるとする他、下請け業者がこれに反した場合、受注者が連帯してその責任を負うことを求めるものです。

 また同市独自の最低賃金額の基準は「農林水産省と国土交通省が公共事業の積算に用いる労務単価や、市職員の給与条例を勘案して決める」としています。

 以前から、公共部門から民間への業務委託の拡大と、一般競争入札の広がりに伴い、受託業者に雇用される労働者の労働条件の低さが顕在化し、指摘され続けていました。何らかの対応が要請されていることはそのとおりと思いますが、その際も以下の点への考慮は必要ではないかと考えます。

・同一価値労働同一賃金の観点から見た公務員(これに準ずる職員)と業務受託業者等の労働者との労働条件格差(特に賃金)の問題

 ・上記問題に際して、民間市場における業務受託料金の水準をどのように考えるのか、あるいは同水準を考慮することなく、公務員給与水準に合わせる方向で対応するのか

 ・公務員給与水準をどのように考えるか

・市条例等で最低賃金額を設定する際の決定プロセス・関与者、その内容の合理性
(※国の最低賃金決定に準じ、公労使3者構成で協議・決定するのか、あるいは市独自で判断?)

・国の最低賃金制度との関係をどのように考えるか

 いずれにしても注目すべき動きであるといえ、今後の動向を追っていきたいと思います。


2009年8月20日木曜日

男性の育児休業取得率10%(2017年)は達成困難な数値目標か


 先日、新聞各紙で育児休業取得状況(厚労省発表 雇用均等基本調査)が報道されていました(nikkei news)。
 報道では育児休業取得率に焦点があてられ、中でも男性の取得率が低調である上(1.23%)、前年比で減少したことが、大きく報じられておりました。
 また取得期間の状況についても、女性の育児休業取得が10カ月から12カ月が3割近くを占める一方、男性は1ヵ月未満が大半である旨、報じられております。

 実は、男性の育児休業取得率を2017年までに「10%」に引き上げることが、政府のWLB行動指針の数値目標(こちら)で明記されておりますし、企業によっては次世代行動計画を策定し、ここに男性の取得率の数値目標を明記した例も多いように思われます。

 上記の調査結果からみると、数値目標達成が絶望的に見えるところですが、実は男性の育児休業取得「率」を向上させるヒントが、この調査結果に隠されているようにも思われます。それは取得期間です。前述のとおり、男性の取得日数は1ヵ月未満が大半を占めています。

 恐らく、この中には、妻が出産した直後の産後休暇中(産後8週間(労基法65条))に、夫が育児休業を取得したケースが相当程度含まれているように思われます。本ブログでも前述したとおり(こちら)、これは労使協定で、専業主婦(夫)の配偶者がいる労働者を制度の適用除外と定めた場合においても、妻の産後休暇中は育児休業を取得可能です。
 私の知る限りでは、このような取得例はあまり見聞きしておりませんでしたが、調査結果を見ると、まだ数は少ないとはいえ、上手に男性が育児休業を取得されている例があるのだなと感心した次第です。たしかに、妻が出産してから退院まで、そして生活が落ち着くまでは、いかに役立たずな旦那(私のことです)とはいえ、買い物・洗濯・掃除など少しは役に立つこともあるでしょう(笑)。また、その間(産後8週間内)、雇用保険からの育児休業給付があれば、会社からの補てんがなくても(あればなお良いですが)、1~2カ月程度は十分にやっていけるものと思われます。

 また先般からお伝えしているとおり、改正育児介護休業法が成立しました(こちら)。施行は来年夏頃を予定しているようですが、同改正では、更に男性の子育てができる働き方の実現を促すべく以下の制度等が新設されました。

・父母がともに育児休業を取得する場合、1歳2カ月(現行1歳)までの間に、1年間育児休業を取得可能とする(パパ・ママ育休プラス)。
・父親が出産後8週間以内で育児休業を取得した場合、再度、育児休業を取得可能とする。
・配偶者が専業主婦(夫)であれば育児休業の取得不可とすることができる制度を廃止する。
(これにあわせて、育児休業給付についても所要の改正)

 お父さんの中には、子が1歳になるまで何があるか分からないので、産後に育児休業を使うのはやめておこうと権利行使を控えていた方もいるやもしれません。また配偶者が専業主婦であるため、そもそも育児休業は使えないと誤解していた方も多いと思います(実はわたしめも・・)。今回の改正は、これらの障壁をなくすものといえ、上手に労使双方が利用することによって、男性の育児休業取得率が急激に増加する可能性を秘めていると思われます(1~2カ月の取得の限りにおいて、前言撤回)。

 そのように考えていくと、政府のWLB行動指針の目標数値(男性の育児休業取得率)は、十分に達成できるのではないでしょうか。もちろん、男性の育児休業期間についても、産後1~2カ月に限らず、今回の改正を活かして、更に上手く活用されるべきでしょう。

2009年8月19日水曜日

懐かしくなる味、八角

 北海道で食べる魚、たとえばニシン、ホッケは、いずれも大ぶりで脂が乗っており、美味この上ありません。

 しかし、それを上回る魅力ある魚として「八角」があります。写真で見てのとおり、外見はスマートとは言い難いのですが、一口食べてみると、その旨さに驚かされます。焼いても煮ても、うまい魚です。

 北海道とくに小樽まで足を延ばされた際は、ぜひとも地元の食堂、鮨屋でお試しあれ。

民主党マニフェスト・政策集にみる労働政策の考え方(雇用保険)

 民主党HPに政権政策(政権公約(マニフェスト))と民主党政策集「INDEX2009」が掲載されています。


 両者の関係について、産経NEWSに掲載された民主党政調幹部の言を借りれば、「われわれが選挙で国民に示して約束するのはマニフェストであり、政策集は公約ではない」(産経NEWS)とのことですが、政策集はマニフェストよりも、かなり詳細な記述がみられ、民主党の考え方を知る上で有意義です。


 ここでは、主に民主党マニフェストにおける労働政策(雇用保険)の記述を中心に紹介することとし、同政策集は必要に応じて、合わせて言及することといたします。


 マニフェストの3頁以下に、まず同工程表が掲載されています。この中には雇用対策として「雇用保険を非正規労働者に拡大適用、求職者支援等」が主要8項目の一つとして挙げられています。同工程表を見ると、この雇用対策については、平成22年に半分程度実施し、平成23年から同25年にかけて完全実施としており、予算規模として総額1.1兆円(4年)を見込んでいるようです。
 
 マニフェストの20頁以下では、雇用・経済部門のマニフェストの一つである雇用保険適用拡大について、以下の記載が見られます(こちら)。

38.雇用保険を全ての労働者に適用する
【政策目的】
○セーフティネットを強化して、国民の安心感を高める。
○雇用保険の財政基盤を強化するとともに、雇用形態の多様化に対応する。
【具体策】
○全ての労働者を雇用保険の被保険者とする。
○雇用保険における国庫負担を、法律の本則である1/4 に戻す。
○失業後1年の間は、在職中と同程度の保険料負担で医療保険に加入できるようにする。
【所要額】
3000 億円程度

 ところで現行では、週20時間以上でかつ6カ月以上の雇用見込みがある社員が雇用保険の適用対象者となります(こちら)が、「全て」とは具体的にどのような労働者まで想定しているのでしょうか。これについて、政策集p32には以下の記述が見られます(こちら)。

現在、雇用保険の被保険者となることができるのは、原則として6月以上の雇用の見込みがある場合ですが、31日以上の雇用期間がある全ての労働者を原則として、雇用保険の一般被保険者とすることとし、雇用のセーフティネットから排除されてきた非正規労働者のセーフティネットを拡充します。」

 同記述を前提とすれば、民主党案は週あたりの労働時間数を適用要件から除き、31日以上の雇用期間がある者全てを雇用保険の適用対象とすることを考えているようです。

 最近のハローワークにおける窓口指導を見ると、すでに6カ月以上の雇用見込みがある週20時間以上のパート社員については、雇い入れ段階からの加入を事業主に促す方向での指導が強められつつあります(こちら)。非正規雇用の比率が高い企業においては、現行法を前提としても、雇用保険適用への対応が急務といえると思われます。

 ところで民主党マニフェスト(雇用保険)の最後にある医療保険(失業後1年の間~)の記述は、趣旨・内容が分かりかねます(同指摘をすでに行っているものに、労務屋さんのブログ「吐息の日々~労働日誌~)(こちら))。

 分からないなりに以下、私なりの推察を行ってみます。まず離職者の医療保険加入を整理すると、現行法においても、健康保険加入者(サラリーマン)が離職の際、「任意継続被保険者」となることを選択できます。その際の保険料額は退職時の標準報酬月額×8.2%(9月以降は各都道府県で決定 上限が現行で月額22960円(こちら)となります。
 これに対し、任意継続を選ばず、離職者が市町村の国保に加入した場合、国保保険料の算出方法は、市町村の基準によって異なりますが、前年度年収が一定程度あれば、上限額年額47万円程度(月額で約4万円)になることが多いと思われます(保険料算出方法について、例えば札幌市であればこちら)。

 いずれにしても離職者が健康保険の被保険者資格を喪失した場合、任意継続にせよ、国保にせよ、医療保険額が増額するのは間違いのないところです。民主党マニフェストはこれに対し、離職1年間は前年度と同程度の保険料を維持の上、「医療保険」に加入できるようにするとのことですが、この医療保険は健康保険(任意継続)、国民健康保険どちらを指すのでしょうか。財政上は当然、任意継続の方が負担が少なく済みます(※なお離職者のうち、任意継続被保険者を選択せず、国保に移行した方の中には、「離職後20日以内の手続き」が不知のため、自らにとって有利であった任意継続制度に移行できなかった例が少なくないように思われます。)

 また健康保険料との差額は、いずれにしても月額で1万~3万円にも上ると思われますが、この差額をどこから手当するのでしょうか。全くの推測ですが、雇用保険の項目にこれが入っているということは、雇用保険の給付メニューに新たに同差額補てん分を追加することを想定されているのやもしれません。

 社会保障制度はその時々の政治・経済情勢や国民のニーズに制度構築が影響されますが、分かりやすい制度体系の構築が求められることも、最近の年金制度をめぐる議論で明らかになったところと思われます。雇用保険制度についても、個別ニーズの対応とともに、制度全体の目的やその体系を見失うことのない改正論議を一介の実務担当者として望むものです。

2009年8月13日木曜日

ビジネスガイド9月号への拙稿掲載について

 ビジネスガイド9月号(日本法令)に拙稿「施行後に予想される労基署監督・指導内容の変化と企業の対応策」が掲載されました(同号の案内はこちら)。

 来年4月の改正労基法施行に伴い、新たにどのような点が監督指導の対象となるのか、そしてこれに対する企業実務対策上の留意点を解説したものです。

 読者の方に少しでもお役に立つところがあれば、誠に幸いです。

 さぁ明日からの盆休み。山積している原稿書き・未読論文と格闘することといたしましょう(笑)。

 

2009年8月12日水曜日

大通公園の啄木


 石川啄木の碑は、北海道の各所で見られます。大通公園にあるのが、この銅像と碑です。

 刻まれているのが、「一握の砂」の一編

「しんしんと幅広き街の
秋の夜の
玉蜀黍の焼くるにほひを」

 ちょうど訪れたのが夏の暑い盛りでしたので、あまりピンとこないのですが、晩秋の人気がない大通公園でこの碑をみると、とてもしみじみとした情感が味わえます。

 ところで小樽駅前にも啄木の碑がありますが、昔から如何なものかという気がしております(色々な解釈がありうるのでしょうが・・)。

 「かなしきは小樽の町よ
  歌ふことなき人人の
  声の荒さよ 」

 今現在でいえば、小樽市民の「文化度」の高さは、道内でも随一と思われます。「歌ふ人々」は、今や東京よりも多いやもしれません(笑)。
 

2009年8月11日火曜日

北海道への旅

 先週、北大社会法研究会主催のクールセミナーに参加するべく、久しぶりに北海道を訪れました。その際、余市まで足をのばし、ニッカウイスキー工場見学へ。

 労働法・社会保障法研究者の先生方と一緒に訪れたためか、工場見学の案内をしていただいた方に、「従業員は何名くらいか?、ウィスキーを製造しない期間の対応は?」などと、あまりに無粋な質問をしてしまった次第。もはや職業病でせうか。

 それはさておき、同工場限定で試飲(有料)、販売しているシングルカスク25年、同20年は絶品です。お立ち寄りの際はぜひともお試しください(同工場のHPはこちら)。

 同工場で毎年、開催している「10年目のマイウイスキー」(1泊2日でウィスキー製造のお手伝いをさせていただき、10年後、そのウイスキーを受け取りに行くという余市工場の企画(こちら))のちらしを頂きました。子供と行くと、とても楽しそうな気が・・・(父親だけの妄想?)。近いうちにぜひとも行きたいものです。