2009年7月31日金曜日

改正パート法の施行状況と事例集の公表について

 先日、厚労省はパートタイム労働法の施行状況を公表しました(こちら)。
 平成20年度のパートタイム労働に関する相談件数と均等室の行政指導件数、紛争解決援助の状況が発表されておりますが、予想以上に積極的な行政指導状況が見られ、驚かされました。

 当初から改正パート法施行に伴い、労働条件の文書交付に係る指導は多いとは考えていましたが、公表資料によれば、転換推進措置に係る指導がそれを上回っています(労働条件文書交付約2100件に対し、転換推進措置が2953件)。
 また、これ以上に驚かされるのが、賃金の均衡待遇(9条)に係る指導件数の多さです(約1000件)。9条の賃金均衡待遇はいずれも努力義務規定ですが、均等室は同規定の遵守を行政指導をもって、積極的に指導している状況が伺えるところです。

 これに対し、改正パート法施行時に最も注目されていた「正社員と同視できる短時間労働者」に対する差別的取り扱いの禁止(8条)については、年間での行政指導件数が全国でわずか7件でした。また紛争解決援助において局長指導の申し立てがあったのが4件、均衡待遇調停会議に至っては全国でわずか3件(いずれも差別的取り扱い禁止の申し立て)とのことです。

 同公表結果をみると、改正パート法への対応は、差別的取り扱い禁止よりも、まずは労働条件明示と賃金制度の整備(職務内容、勤続年数、意欲等の客観的評価基準に基づいた賃金制度の構築)そして転換推進措置の導入が急務ということが分かります。

 これについて、厚労省はようやく昨年度の「有期契約労働者の雇用管理の改善に関する研究会」に課された宿題である企業取り組みの事例集を取りまとめ、公表しました(こちら)。フルタイムを含めた有期契約労働者の雇用管理の取り組みについて、13もの多種多様な企業事例が掲載されています。とくに先ほどの改正パート法上の指導が目立つ転換推進措置、賃金制度構築などで参考になる事例が多く、パート雇用管理に悩む実務担当者にとって有益な資料と思われるところです。

 このような企業事例集の策定・公表は他の分野も含めて、今後も引き続き厚生労働省にお取り組みいただきたいものです。

2009年7月30日木曜日

「東京物語」再見

 先週日曜、事務所の向かいにある三鷹産業プラザで小津安二郎の映画上映会が開催されました(こちら)。ぜひこの機会にスクリーンで「東京物語」を見直したいと思い、足を運びましたが、本当に良かった。何度めの観賞かもう分かりませんが、何度見ても、本当に味わいのある作品です。

 10代の頃、初めて見たときは、香川京子さん扮する「京子」に感情移入していたことが思い出されますが、先日見返してみると、原節子さん扮する「紀子」の次のセリフが切々と胸に響きました。「そう、いやなことばっかり・・・」。

tougyouさんという方のブログに、大変丁重に紀子・京子のセリフが再現されておりますので、小津作品の無常感をしみじみと味わいたい方はぜひこちらを(tougyouさんブログ)。tougyouさん、誠にありがとうございます。

小津、成瀬監督作品は、大人になればなるほどその深みが味わえる気がいたします。そのような邦画がこれから出てくれば良いのですが・・・・。

2009年7月28日火曜日

確定拠出年金の拠出限度額引き上げへ


 先日の衆院解散を受けて、企業とともに加入者本人も掛け金を拠出できるマッチング制度創設などを含んだ改正確定拠出年金法案は廃案になりました。

 政府はこれとは別に、政省令改正を行い、確定拠出年金の拠出限度額(非課税限度額)を引き上げることとしました。先日の閣議(7月24日)で政省令改正が閣議決定され、その施行は平成22年1月1日とするものです。これはすでに昨年12月の与党税制改革大綱で調整済みとのこと。
(時事ドットコムNEWSはこちら

 引き上げ額は
  企業型確定拠出年金 
    確定拠出年金のみの場合     
     月額5万1000円(現行は同4万6000円)
    他の企業年金との併用の場合  
     月額2万5500円(現行は同2万3000円)

  個人型確定拠出年金(サラリーマン向け(第2号被保険者))
     月額2万3000円(現行は同1万8000円)
なお自営業者が加入する個人型確定拠出年金の限度額は月額68000円のままで変更がありません。

 ところで最近、「なぜGMは転落したのかーアメリカ企業年金の罠」(アマゾンはこちら)を読みましたが、株価変動に「直接」加入者が左右されるDCの功罪(とくに罪の部分)を思い知らされました(※エリサ法と官公労というアメリカ特有の論点も印象的でしたが。)。とはいえ、他の年金制度も多かれ少なかれ、金融市場において利回りを上げて初めて成り立つものであることは変わりありません。そのリスクを保険者である政府、企業、あるいは加入者個人の誰が負うのか、またどのような割合で負うのかという問題は、今後更に検討されるべき社会的課題でしょう。


2009年7月22日水曜日

衆議院解散の報を受けてー重要法案の仕切り直しー


 昨日、衆議院が解散されました。その結果、国会に内閣提出法案として係属していた改正派遣法、被用者年金一元化法案などの人事労務関連重要法案も廃案となります。

 いずれも重要法案であり、9月以降、改めて審議されることになろうかと思います。その際は更に大きなグランドデザイン(前者は非正規雇用に対する雇用政策全般、後者は国民年金第3号被保険者を含めた年金・雇用政策全般)とともに、実務的視点を踏まえた実のある議論が展開されることを強く望みたいと思います。

2009年7月18日土曜日

取締役の善管注意義務と時間外割増賃金について


 企業における時間外割増賃金の法的リスクは、残業代の遡及払い、過労死・過労自殺などがよく指摘されるところですが、先日公刊されたある判決を見ると、更なる拡大の可能性が見られます。

 S観光事件(代表取締役ら・割増賃金支払義務)事件(大阪地判平成21年1月15日 労判979-16)です。同事件では、従業員が会社の代表取締役および取締役を相手取り、商法上の善管注意義務ないし忠実義務違反を理由に未払い割増賃金についての損害賠償請求を行い、これが認められたものです(確定)。会社ではなく、役員の個人責任が法的に認められたという点で稀有な判決といえます。

 今後、同判決の以下判示部分をどのように評価すべきであるのか。そして同判示部分が今後どのように判例法理として形成されていくのか(いかないのか)、大変注目されます。なお同事件については、別訴で従業員に対する割増賃金支払いが命じられているにもかかわらず、会社側が同確定判決を無視するなど特異な事情があり、結論として取締役の個人責任を問うて然るべき事案ではあったとは思われます。


「株式会社の取締役及び監査役は、会社に対する善管注意義務ないし忠実義務として、会社に労働基準法37条を遵守させ、被用者に対して割増賃金を支払わせる義務を負っているというべきである」

「商法266条の3(280条1項)にいう取締役及び監査役の善管注意義務ないし忠実義務は、会社資産の横領、背任、取引行為など財産的範疇に属する任務懈怠だけではなく、会社の使用者としての立場から遵守されるべき労働基準法上の履行に関する任務懈怠も包含すると解すべきである」

 また労働基準法上の履行が取締役の善管注意義務にあたるとしても、第3者(従業員含む)に対する取締役の善管注意義務違反を理由とした損害賠償は「悪意又は重大な過失」がある場合に限られます(旧法266条の3(現行会社法第429条))。
 本件については、取締役側が職務手当に時間外割増賃金が含まれていると当時理解していたことと、労基署の2度にわたる調査において割増賃金に係る是正勧告が行われないことをもって、「悪意又は重大な過失」がなかったと主張しました。これに対し、裁判所は少なくとも労基署が就業規則の周知義務違反を行政指導していたことをもって、職務手当に係る規定の周知とその趣旨どおりの運用が不十分であったことを役員が認識することは、「極めて容易なことであった」とし、その「悪意又は重大な過失」の成立をも認め、損害賠償請求を認容しています。

 商法改正に際し、株式会社における内部統制構築が大きな課題でしたが、その際、労働法令遵守がこれに含まれるとの認識は比較的薄かったように思われます。しかし、本判決内容を前提にすると、時間外割増賃金などの労基法に係る法令遵守は、取締役の「株主」に対する善管注意義務に含まれ、明らかに内部統制事項に含まれることになります。そしてその義務不履行とその悪意又は重過失は上記裁判例を見る限り、比較的容易に認められる可能性があることが示唆されています。

 時間外割増賃金支払いをはじめとした労働法令遵守は、もはや労務・人事などの部門に留まる問題ではなく、取締役が責任をもって対応しなければならない時代を迎えたといえるのかもしれません。

 なお時間外割増賃金をめぐる法的リスクとこれに対する実務対応について、北岡・峰隆之弁護士共著で単行本を出版することになりました。「ダラダラ残業防止のための就業規則と実務対応」(㈱日本法令)です(こちら)。同リスク問題を企業実務対応の視点から詳細に解説しておりますので、ぜひともお買い求めいただければ幸いです。

2009年7月15日水曜日

「ダラダラ残業防止のための就業規則と実務対応」発売決定(7月20日)について


 昨日、念願の単行本「ダラダラ残業防止のための就業規則と実務対応」(峰隆之弁護士・北岡大介共著㈱日本法令)が刷り上がり、感動の対面を果たしました(笑)。峰先生、編集の松本さん、誠にありがとうございました。

 今週末(17日頃)には、本屋さんに並ぶとのことでした。日本法令さんのHPにも、すでに案内が貼り付けられています(こちら)。ビジネスガイド8月号の案内をみて、すでに多数の予約を頂いている旨、伺いました。本当にありがたい次第です。

 読者の方に少しでもお役に立つところがあれば、筆者の一人として誠に幸いです。多くの方に読んでいただけることを願っております。

2009年7月9日木曜日

判例研究会報告について

 昨日、早稲田大学の労働判例研究会で判例報告(東芝事件)をさせていただきました。同研究会は島田陽一先生、石田眞先生、浅倉むつ子先生など早大の社会法系の先生方と大学院生が中心に、週1回のペースで判例研究・比較法研究を行っている研究会です。貴重な報告の機会を頂きましたので、ここ数日、その準備にかかりっきりになっていました。

 準備において何が大変かですが、何よりも「論点の切り出し」と、その論点への検討を肉付けるための関連文献・判例の収集・読み込み・整理にあります。免許皆伝されている研究者・弁護士の先生は、これを最短距離で突っ走れる訳ですが、わたくしのような若葉マークの若輩者は、あっちに行ってみたり、こっちに行ってみたりと寄り道に寄り道を重ねて、トロトロと歩まざるを得ません。その分、時間と労力がかかる訳ですが、その寄り道もまた別のところで肥やしになることもあります。まさに犬も歩けば棒にあたる!。とはいえ、当然ながら、研究会報告では寄り道ではなく、筋のとおった報告をしなければなりません。

 北大大学院時代、「寄り道」ばかりの報告をして、よく道幸先生、倉田先生などの先生方に「指導」いただいておりましたが、あれから少しは進歩したのだろうか。研究会報告後の美味しいビールを飲みながら、感慨にふけった次第です。

2009年7月1日水曜日

東京都両立支援研修会意識改革コースの講演について

 昨日、標記コースの講師を2時間ほど務めさせていただきました。飯田橋の東京しごとセンター地下講堂には、受講生として訪れたことはありましたが、今回、講師としては初めてでした。話してみてよく分かりましたが、音響施設含め講演しやすい良い会場です。

 中小企業の人事ご担当者向けに両立支援施策の必要な背景、同施策の具体的内容そして改正育児介護休業法などを2時間ほどお話させていただいた次第です。大変熱心に受講いただき、誠にありがとうございました。

 帰宅して同講演の話をしたところ、蜂の一刺しの如き一言。「家にいるときの行動と、外での講演に大きなギャップがあるのでは?」。

 全国の30代のお父さん、お互い頑張りましょう(笑)。