2009年6月30日火曜日

時間帯加算賃金と割増賃金について


Q  当社は小売流通業を展開しています。日中の基本時給を700円としていますが、夜22時から閉店26時までの深夜加算を250円と設定しているものです。パート社員に法定時間外労働が生じた場合、深夜時間帯においても、基本時給700円をベースに残業単価を算出しておりましたが、ある時、パート社員から時間帯加算給も含めて残業手当を支払うよう請求されました。このような請求に応じなければならないものでしょうか。
 また時間帯加算が深夜ではなく、午後7時~10時に夕方加算なるものが行われていた場合、どうか。

 小売・外食などの業界では、パートアルバイトの採用力確保などのために、時間帯によっては加算給を支払うケースが多いものです。この時間帯加算と残業手当の算定方法との関係は、非常に複雑であるためか、今なお誤解・混乱が多いところと思われます。

 設問1の深夜時間帯の加算についてみると、これは深夜午後10時~午前2時までの深夜時間帯に対して支払われているものであることは明らかです。同手当は労基法の定める深夜割増賃金であると認められるため、同加算給は当然、残業手当算定の基礎には含まれません。したがって、夜22時~26時までの時間帯に時間外労働をしていたとしても、残業単価の算出は1時間あたり700×1.25ということになります。

 これに対して次の夕方加算は難問です。この加算については、深夜割増賃金等とはいえません。「同時間帯の作業」において、時間外労働が生じた場合は、残業単価の算出方法は基本時給+夕方加算を基に原則として算出することになるものです(参考資料として、東京労働局資料(こちら))。

 これに対して、仮に午前10時からシフトに入っているパート社員が午後7時以降、残務業務を30分行っていた場合はどうでしょうか(休憩1時間)。厚労省の労働基準法コンメンタールをみると、例えば特殊作業手当を残業単価の基礎に含めるか否かは、「割増賃金を支払うべき時間にいわゆる特殊作業に従事した場合において、特殊作業についていわゆる特殊作業手当が加給される定めになっているときは・・含まれる」(昭和23年11月23日 基発第1681号)としています。

 この解釈を前提とすれば、時間帯加算給についても、残業時間における業務内容とこれに対する賃金制度によっては、先の時間帯加算が残業単価に含まれないとの判断も導き出せるものと思われます。

 

2009年6月29日月曜日

改正育児介護休業法成立について


 平成21年6月24日、参議院において改正育児介護休業法が成立しました。内閣提出法案に対し、衆議院で一部修正がなされたものが、参院において全会一致で可決成立したものです(成立法はこちら 参議院HP)

 内閣提出法案における改正ポイントは以前ブログでご紹介しております。また厚生労働省HPに見やすい資料が示されています(こちら)ので、そちらを参照いただくとして、ここでは短時間勤務制度の適用除外と企業名公表制度について解説いたします。

1 短時間勤務制度・所定外労働免除制度について
 まず本改正において、3歳未満の子を育てる労働者に対する短時間勤務制度と所定外労働免除制度の導入が新たに義務化されることとなりました。但し100人以下の労働者を雇用する事業主については、同改正の適用が猶予されています(公布日から3年以内に見直しの予定)。
 本改正の適用を受ける企業は、自社の就業規則・運用を再確認し、上記2制度が未整備の場合、施行(来年夏予定)までに、その準備を行う必要が生じます。

 その際、問題となるのが、同制度の適用対象労働者です。まず所定労働時間が3~4時間の労働者に対して短時間勤務制度導入の要があるかですが、厚労省審議会では1日6時間以下の短時間労働者は法令上、適用除外とすることが確認されています。
 これに関連して、1日の所定労働時間短縮は、1日6時間を上回る分の短縮措置が求められることになりそうです。

 次に職場の性質や実施体制等に照らして、所定労働時間短縮が困難な業務も想定されます。例えば国際線のキャビンアテンダントの業務などは、その性質上、所定労働時間短縮が困難といえます。あるいは流れ作業による製造業務などもその業務の性質や実施体制によっては、短時間勤務制度が困難である場合も考えられます。また労働者数が少ない事業場において、当該業務に従事し得る労働者数が著しく少ない業務なども、その実施体制上、短時間勤務制度の導入が困難なケースが想定されるでしょう。

 今回の改正では、このような業務の性質あるいは、業務の実施体制に照らして制度の対象とすることが困難な業務について、「労使協定」を締結することを条件に、短時間勤務制度等の適用除外とすることを認めました(但し、その代わりとしての配慮措置は必要)。

 本法改正への企業対応においては、同制度の導入準備とともに、上記理由から適用除外とする労働者層の検討と労使協定締結のための交渉が不可避ということになります。なお、審議会において、経営側から、時間的支障等から同労使協定が締結できない場合、特例として就業規則による適用除外制度を認めるよう主張されていましたが、厚労省事務局はこれを否定する回答を行っています。施行までに労使協定を結べない場合は、適用除外としたい労働者層含めて、本改正法が適用されることになるものです。
参考資料 短時間勤務について(論点) 審議会資料 (こちら
第90回労働政策審議会雇用均等分科会議事録 (こちら


2 育休切りへの対応
 前述のとおり、衆院において同法案の一部修正がなされています。同修正において注目すべきは「企業名の公表制度」の前倒し施行です(政府案では公布日から1年以内とされていたものを、公布日から3ヶ月以内に修正)。
 現行法においても、育児休業申し出・取得を理由とした解雇その他不利益取扱いは禁じられており(育介法10条)、これに反する事業主に対して、厚生労働大臣は助言、指導もしくは勧告を行えることとしています(同法56条)。今回の改正では、この勧告に従わない事業主に対して、公表制度が新たに設けられることになりましたが、これを前倒しで施行するということです。

 この前倒し施行の背景には、「育休切り」といわれる育児休業等を理由とした解雇その他不利益取扱いの蔓延があるようです。厚労省が先日、公表した指導状況を見ても、その深刻さが伺えます(こちら)。
今回の改正では、これらの問題を踏まえて均等室の行政指導・労使紛争斡旋権限が大きく拡充されています。今後の均等行政の動きも、大変注目されるところです。

 

2009年6月28日日曜日

IPHONEのことなど

 今週から来週にかけて講演続きの毎日の中、IPHONEを導入いたしました。久しぶりのMAC?回帰でした。昔、見慣れた「爆弾」マークがいつ出るかひやひやしながら操作しておりますが、思いの外、快調です。技術の進歩に負けないよう、わたくしめも仕事の研鑽を励まねばならぬと思う今日この頃です(笑)。

2009年6月15日月曜日

改正育児介護休業法案の審議動向

 先週末(6月12日)、衆議院厚生労働委員会で育児介護休業法案が可決され、衆議院本会議に上程されることが決定しました。今週中には衆議院を通過する見込みです(毎日新聞報道はこちら

 同報道によれば、内閣提出法案に一部修正が入ったものが全会一致で可決されたとのこと。衆院はもちろん参議院においても、特段問題なく可決され、法案成立するものと思われます。

 まだ成立していませんが、同法の施行は来年4月1日を予定している上、企業・労働組合も相応の準備が求められる改正法案といえます。もうそろそろ情報収集の上、対応の準備を進められるべきと思われます。

過去ブログについて
 改正育児介護休業法案の動向(労働開発研究会HP)(こちら
 育児介護休業法案の国会提出について(こちら
 育児休業法トリビア(こちら
 WLBと労使自治(こちら

追伸
 育児介護休業法案のとりまとめに尽力しておられた村木局長の逮捕の報を聞きました。大変残念な話といわざるをえません。

 

2009年6月11日木曜日

改正労基法施行通達にみる代償休暇の考え方

 
 先日、厚労省は改正労基法の施行通達を発出しました(平成21年5月29日付基発第0529001号 こちら)。同通達は厚生労働省本省が、改正労基法の施行にあたり留意すべき点を都道府県労働局長に示達したものです。

 同通達の詳細と想定される労基署監督指導については、来週末予定しておりますセミナー(こちら)で講演を予定しておりますが、施行通達で特に気になったものとして、代償休暇の問題があります。

 この通達が出るまでは、同休暇は使用者が同休暇を労働者に付与し、社員は原則としてこれを拒めない(取得義務あり)とする見解が示されてきました(例えば中田成徳「改正労基法案による特別割増賃金と代償休暇制度」 岩出誠編著「論点・争点現代労働法(改訂増補版)」(民事法研究会)273頁以下、岩出誠著「改正労働基準法と企業の実務対応」(日本法令)49頁以下など)。

 私自身もそのように考えていましたが、前述の施行通達を見ると、以下の「新解釈」が示されておりました。「代替休暇を取得するかどうかは、労働者の判断による(法第37条第3項)ため、代替休暇が実際に与えられる日は、当然、労働者の意向を踏まえたものとなること」(施行通達p9)。

 そこで慌てて、労基法37条3項を読み返してみますと、「・・当該割増賃金の支払いに変えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(※代替休暇を指す)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは・・同項但し書きの規定による割増し賃金を支払うことを要しない」と規定しています。

 私は「与えること」の文言から、使用者による代替休暇「付与」と理解してきましたが、厚労省はその下の「取得したときは」の文言から、「代替休暇の取得は労働者の判断による」との解釈を示してきたものと思われます。

 この問題については労働基準法施行規則などの政省令に定めはありませんので、法解釈に委ねられており、どちらの解釈も成り立ちうると思われるところです。何らかの形で、この解釈をめぐり裁判上の係争事案が生じた場合、裁判所が厚労省と異なる解釈を示す可能性はないとはいえません。

 とはいえ当面、実務家としては、この厚労省の見解を基に対応を考えざるをえないでしょう。労働者の意向をその都度、確認の上、当月末から2ヶ月という短い間に取得していただくということですが、実際の導入はいよいよ難しいとお感じの企業実務担当者が多いように思われるところです。
 また以前のブログで指摘していた代替休暇の付与始期(こちら)についても、懸念どおりの内容が施行通達で示されており、これも従業員の健康確保という観点から、制度の柔軟性を欠いています。

 代替休暇導入を検討している企業は、これらハードルを前提の上で、導入準備を進めていく必要があります。前述のセミナーでは、これら代替休暇制度のほか、時間外割増賃金引き上げ、改正限度基準告示および時間単位年休付与をめぐる施行通達のポイントと予想される労基署監督指導の内容等をご解説する予定としております。お時間がございましたら、ぜひともご活用いただければ幸いです。

 また社内、労組内での研修会、会議等でこの問題等について、出張講演させていただく機会も増えてまいりました。お気軽にご用命ください(講師派遣についてはこちら)。
 

2009年6月9日火曜日

雇用調整局面における団体交渉の法律実務セミナーについて

 昨日は三上安雄弁護士(ひかり協同法律事務所)による標記テーマの講演を聴講いたしました(こちら 企画担当)。労働組合との団体交渉、とりわけ賃金引き下げ、希望退職募集、整理解雇などの厳しい局面における団交は、労使双方にとって、非常に厳しく難しい問題です。

 三上先生には、このような難しいテーマを大変分かりやすく、かつ先生の実務経験をふんだんに織り込んでいただきながらご解説を頂きました。他の参加者の方々にも、大変参考になった講演ではなかったでしょうか。

 ご講演の中でとりわけ印象的であったのは、賃金引き下げなどの厳しい局面における団体交渉、個別説明の際には、当事者の「得心」はありえないということ。そして会社側としては、誠意をもって会社側事情の説明を行っていく他ないというお話です。

 労使紛争の事案の多くは、どこかで労使間のボタンが掛け違って生じることが多いように思われます。そのボタンの掛け違いは、労使間のコミュニケーションが十分取れていないことに起因するものです。はじめはほんのささいな掛け違いが、労使紛争が長期化すればするほど、どんどん大きくなっていく感がありますが、それを元通りにするためには、初期段階の数十、数百倍の労力がかかってしまうことが多いものです。労使関係もやはり「はじめが肝心」であり、労働条件変更、希望退職募集などの際に、十分な労使コミュニケーションを取っておくことが、やはり最重要というべきでしょう。三上先生のご講演を拝聴し、改めて痛感しました。

2009年6月5日金曜日

37号告示の疑義応答集セミナーについて

 1~2年前、ある先生が名調子でおっしゃられたのが、「泣く子も黙る37号」との言葉でした。たしかに偽装請負問題がマスコミにおいて大々的に報道されていた一時期、派遣請負区分基準である37号告示は、大変な権勢(?)を誇っていました。

 その際、耳にしたことがある都市伝説の一つに、ある局(北関東地方)で請負労働者と社員のトイレを別にするよう口頭で指導がなされたとの話がありました(混在がダメということの一つとして?)。そのような噂が流れ飛ぶほど、この37号告示が分かりづらく、また不透明な行政指導がなされているとの不満が一部に根強くあったものです。

 それが昨年からの不況を受け、偽装請負問題が下火(派遣切り・請負切りの問題が深刻化)となった今年3月末になり、唐突に出されたのが厚労省「37号告示に関する疑義応答集」です(こちら)。(※なお同トイレ問題は同疑義応答集Q12で、そのような馬鹿げた解釈を明確に退けています。当然だと思いますが、質疑応答集にわざわざ書いているということは・・・・)。

 昨日、特定社会保険労務士で元需給調整指導官でもあった田原咲世先生が、この疑義応答集について解説するセミナーを聴講いたしました(こちら なお企画を担当しました)。田原先生には以前もセミナーで講師をお務めいただいたことがあるのであるが、前回同様、大変分かりやすく、かつユーモアあふれる講演で勉強になりました。

 この37号告示の問題は、構内下請の場合、使用施設の賃貸借契約など非常に細かいことも含めて見ていく必要があります。田原先生のように、実務経験があり、かつ関係法令に精通している専門家は見あたらず、本当に有り難いご講演を頂けたと感じております。(なお田原先生のブログはこちら。私も北海道在住が長く、先生のブログにある美味しそうな食べ物をみては望郷?の念にかられております(笑))。

 現状では偽装請負の問題が沈静化していますが、製造業の復調が見られた場合、請負・派遣活用が急激に進むものと予想されます。その際、この偽装請負、37号告示問題が再燃することは、まず間違いないところです。今のうちに、同質疑応答集を前提とした実務対応策を研究しておくべきでしょう。

2009年6月3日水曜日

コンビニオーナーの労働組合結成の動きについて


 今朝の朝日新聞(09.06.03)において、コンビニ店オーナーが年内に労働組合を結成する動きがある旨、報道されていました(こちら)。

 最近の労働判例、地労委・中労委命令をウォッチングしていますと、今最も混沌としているのが、労働組合法上の「労働者」です。一方では委託事業者、派遣労働者、あるいはプロ野球選手の労組法上の労働者性を認める地労委・中労委命令が出される一方、裁判例を見ると、新国立劇場事件におけるオペラ歌手の労働者性が否定される裁判例(東京高裁)が登場しています。

 そのような中、新たにコンビニ店のオーナーが労組法上の労働者といえるのか否かが問われる可能性が高まっていますが、これは大変難しい問題です。フランチャイズ契約に基づく拘束は一定程度あると主張されているようですが、それが労働者に対する指揮命令関係と同質なものといえるのか。またオーナーの事業者性をどのように見るのかなど多くの難問が残されているように思われます。

 仮にこの労働者性が認められ、労働組合活動が適法といえるのであれば、その影響は思いのほか、大きいと思われます。つまり、これが認められるのであれば、一定程度の拘束(ここがどの程度のものを指すのか問題ですが)がある請負・委託事業者は、それぞれ団結して発注者に対し、交渉をし場合によっては「争議」行為を行うことが、労組法上(憲法28条)保障されると理解しうるからです。

 新国立劇場事件の最高裁判決含めて、今後の動きに注目していきたいと思います。
 

2009年6月2日火曜日

(ご案内)労働法基礎セミナー

 先週水・木、阿修羅展でごった返す上野にて、峰弁護士とともに労働法基礎セミナーの講師を務めさせていただきました(こちら)。

 まる2日間で労働契約、賃金から労働組合法にわたる労働法の全領域を駆け足で解説するというものです。「労働法の基礎」という目的からして、退屈な印象を受ける方がいるやもしれませんが、私自身このセミナーについては飽きることはありません。

 同セミナーは設問70問を参加者の方々にお答えいただきながら、進行している点に大きな特徴があります(時間の都合上、講師が解説する場合もありますが)。そのお答え一つ一つがやはり、受講生の方々のご経験等が反映されることがあり、講師にとっても、おそらくは受講生の方々にとっても貴重な勉強になることが多いものです。また峰先生、私も時間の許す限り、押さえておきたい労働法の基礎知識を実務に即した形でお話させていただいております。よく調子にのって、峰先生・私が労働法上の「雑談」をしていることがありますが、案外その雑談の中にこそ、実務的にお役立ちいただける情報が濃縮されているものと自負しております(笑)。

 企業・労働組合内の研修としても、すでに同セミナーをご活用いただいております。ご関心ございましたら、お気軽にお声がけください。なお(株)労働開発研究会においても、7月に同セミナーが再度開催される予定です(こちら)。ぜひご利用いただければ幸いです。