2009年3月31日火曜日

今朝の朝日1面報道の誤り又は分かりずらさ(改正雇用保険法)

 今朝の朝日新聞1面(3月31日 14版)は「値下げ競う春」との題で、小売価格の変動と年金医療・暮らしなどの改正事項を図表でまとめています。その中の働くという欄に以下の記載がありました。「雇用保険の適用拡大 非正社員の加入要件が、現行の「週20時間、1年以上の雇用見込み」から「6か月以上の雇用見込み」に(3月31日施行)。

 これ以上の補足記事は見当たりません。一読すれば、これから雇用保険の適用範囲は週20時間、1年以上の雇用見込みから「6か月以上の雇用見込み」と理解される方が大半ではないでしょうか。

 しかしながら、今回の改正はあくまで雇用見込みを1年から6か月に短縮したものであり、週20時間以上の基準は変更がありません。この点はもちろん議論のあるところであり、昨日の審議会においても、大沢委員がドイツの例など(週15時間等)を紹介された上で、今後も継続的な検討を行う必要がある旨、指摘されておられました。朝日新聞として、この点を今後の課題として取り上げられることは重要とは思いますが、事実関係の報道については、読者の誤解なきよう正確を期していただたきたいと思うところです。なお同適用拡大は法改正事項ではないため、施行は「4月1日」とのことです(本省担当者の回答)。
 
 

2009年3月30日月曜日

改正雇用保険法施行に伴う企業の実務対応①

 前回のブログでは、雇用保険法の適用要件の緩和について、以下の問題提起を行いました。ここでは1に対する検討を行います。
1 平成21年4月1日施行(適用拡大部分は4月1日)に伴い、週20時間以上でたとえば6か月以上の有期契約社員で雇用保険未加入の者への取扱をどうすべきか。

2 平成21年3月末付で雇止めを行う週 20時間以上でかつ契約社員(1年以上継続雇用しているが、雇用保険未加入)から、雇用保険の遡及適用と受給手続きの督促がなされた場合、企業人事としてどのように対応すべきか

 本日、厚労省の審議会傍聴後、厚生労働省本省の担当官に確認したところ、上記問題について、以下のとおり考える旨コメントを頂きました。まず本年4月1日付で週20時間6か月以上の継続雇用の事実があり、かつ有期雇用契約の更新見込みがある限り、原則として4月1日から雇用保険適用拡大の対象になるとのことでした。これに対し、4月1日時点で6か月以上の有期雇用の実績があったとしても、同有期契約満了をもって終了し、更新の見込みがない場合は4月1日から契約満了までの間、雇用保険手続きを取る要がないとのことです。つまり契約更新の可能性がないことから、雇用継続の見込みがないと判断されることになるものです。
 実は私もこの回答を得るまでは、少なくともすでに6か月以上の初回有期契約を締結している社員(契約締結段階で1年以上の雇用継続見込みがなく雇用保険未加入)については、契約満了まで雇用保険手続きのことは考える要がなく、更新の時点で適用の可否を考慮すれば良いと考えておりました。しかしながら、本省担当者の見解は上記のとおりであります。個人的には少々分かりずらい面があり、実際の適用は現場レベルにおいて、かなり難しいのではないかと感じるところです。
 いずれにしても、週20時間以上の有期契約社員で雇用保険未加入のものがいる場合は、4月1日以降改めて再確認の上、上記のとおり6か月以上の雇用継続が見込まれ、かつ有期契約更新の可能性があれば、適用の方向で検討を進める要がありそうです。

 次回のブログでは2の問題を検討いたします。なお本日の審議会では、改正雇用保険法の施行規則等について答申が出されました。改正法の準備は着々と進められています。

改正雇用保険法成立に伴う企業実務上の課題

 先週末(3月27日)、参議院本会議で改正雇用保険法が可決成立しました。同法の施行は明日3月31日となります(nikkei-netはこちら)。通常、同改正法の施行は翌年度初日にあたる4月1日とされることが通例です。内閣提出法案もその通例に従い策定され、国会に提出されましたが、非正規雇用に対する近年の雇用不安の高まりを受けて、衆議院で次の点が修正され、衆参可決成立に至ったものです。(内閣提出法案についてはこちら
衆議院修正箇所 
・基本手当の支給に関する暫定措置等について、離職の日等が平成二十一年三月三十一日から平成二十四年三月三十一日までの間である受給資格者をその対象とすること
・施行期日を平成二十一年四月一日から平成二十一年三月三十一日に改めること等


 今回の改正点については厚労省資料のこちらが要領よくまとめています。使用者側から見ると、まず雇用保険料率の引き下げ(0.4%引き下げ)が若干の朗報といえるかもしれません。また育児休業給付の支給水準維持と休業・復職給付の一括支給も、実務的に喜ばれる改正点と思われます。

 これに対し、社会的に注目されているのは、非正規労働者に対するセーフティネット拡充の点でしょう。企業実務の視点で見ると、特に雇用保険の適用基準の変更が気になるとことと思われます。今回の改正では、有期雇用契約社員等に対する雇用保険適用の取扱を以下のとおり変更することとしています。
(従前)週20時間以上勤務・反復継続し就労している者(1年以上引き続き雇用されることが見込まれるもの) (審議会資料p4以下参照)
(変更後)週20時間以上勤務・反復継続し就労している者(6か月以上引き続き雇用されることが見込まれるもの)
 
 明日からの施行を前に、週20時間以上でたとえば6か月以上の有期契約社員で雇用保険未加入の者への取扱をどうすべきか。あるいは明日付で雇止めを行う週20時間以上で1年契約社員(雇用保険未加入)が雇用保険の遡及適用と受給手続きの督促がなされた場合、企業人事としてどのように対応すべきか、不透明な点が多々あるように思われます。ここでは問題の指摘にとどめ、次回改めて取り上げることとします。

2009年3月26日木曜日

管理職向けパワハラ防止研修について

 ここ数年、切に感じることが多いのが、管理職向け労働法研修の重要性です。労働判例を見ていても、前回のブログで紹介した国・静岡労基署長(日研化学)事件東京地裁判決を例に挙げるまでもなく、上司の管理職業務の拙さが、即会社の法的責任に繋がる傾向が見られます。これは一私見に過ぎませんが、管理能力が低い上司はその反面、プレイヤーとしては秀逸した実績を挙げており、企業から見ると「プラスマイナス0か+」との算盤勘定が成り立っていた側面があるように感じています。

 このように従前までは、管理業務の拙さも管理職それぞれの「個性」と許容してきた向きもあったと思われますが、先の法的リスクが増大していく中、企業としてもその拙さを放置できないと感じているところではないでしょうか。

 では、どのような取組を行うべきか。これについては決定打はなく、地道に管理職登用とその研修、そしてホットライン等による対応を講じていく他ないところと思われます。そこで重要であるのが、予防策としての管理職向け研修です。

 この管理職向け研修には二つの方向性があるように感じております。第一は心理学・精神医学等の面からアプローチするパワハラ防止のための研修です。私も何度か拝聴する機会がありましたが、色々な示唆が得られる研修でした。一言でいえば、相対する部下等の心に対する「気づき」を与えてくれるものです。
 第2は法的側面からアプローチするパワハラ防止のための研修です。こちらはパワハラ等による精神疾患が生じた場合、どのような法的問題が加害者・法人に対して生じるのか、そして実際の裁判例の分析を通じて、法的責任の範囲やその防止策を深く理解させるセミナーです。こちらの研修は一言でいえば、管理職にパワハラに伴う「リスク」を理解してもらう上で意義のある研修です。

 管理職向けパワハラ防止研修は、この二つを両輪のようにして行っていくことが重要と思われるところです。我田引水ながら、第2の法的側面からのパワハラ防止研修はわたしめも多少の心得はございます(笑)。
 

2009年3月25日水曜日

精神疾患と労災認定

 近年、「パワハラ」問題に対する労使実務担当者の関心は高まる一方です。実は労災請求件数だけでいえば、精神疾患がすでに脳心臓疾患を上回っています。また昨年、国側が行政取消訴訟で立て続けに敗訴しており、今後更に精神疾患の労災請求および認定件数は増加する可能性が高いと思われます(厚労省資料はこちら)。

 先日、厚労省の有識者研究会が精神疾患の労災認定に係る判断指針見直しのための報告書を取りまとめました。厚労省HPではまだ公開されておりません(研究会中途段階の素案はこちら)が、第3回目研究会の配布資料を確認しますと、判断指針における「心理的負荷評価表」に係る具体的出来事の追加・修正が提案されています。

 同追加・修正項目の中でとりわけ注目すべきものとして、心理的負荷の強度「3」に「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」を新規追加する旨の提案があります。同報告書では更にこの点について、「従前、例えば、上司からの嫌がらせ・いじめ等については「上司とのトラブルがあった」で評価していたところ、その内容・程度が業務指導の範囲を逸脱し、人格や人間性を否定するような言動が認められる場合には、ひどい嫌がらせ、いじめ等に該当することとし、この項目で評価するものである。心理的負荷の強度は3が適当である」とするものです。同報告書で指摘されているとおり、従前から上司からのパワハラも精神疾患の労災認定に係る判断指針に含まれていましたが、専ら心理的負荷強度が2である「上司とのトラブルがあった」と評価されていました。その結果、労基署もこれだけでは労災認定することはできず、その他過重労働なども含め、認定判断するべきか考慮されてきました。

 これが改められる契機となったのが、国・静岡労基署長(日研化学)事件 東京地判平19.10.15労経速1989号7頁です。同事件はMR職社員が上司からの言動が起因して精神疾患を発症し、自殺したことの業務起因性が争われました。従来の同種事案では長時間労働等が介在しているケースが大半でしたが、同事案はさしたる長時間労働はなく、上司の言動のみが業務起因性判断において問題となったものです。具体的には以下言動が問題となりました
①存在が目ざわりだ、居るだけでみんなが迷惑している。おまえのカミさんも気がしれん。お願いだから消えてくれ。
②車のガソリン代がもったいない
③何処へ飛ばされようと俺はAは仕事をしない奴だと言いふらしてやる
④お前は会社を食い物にしている、給料泥棒 等々

 東京地裁判決は、 これら上司の発言は「過度に厳し」く「嫌悪の感情の側面」があり、「極めて直截なものの言い方」であって、「通常想定されるような「上司のトラブル」を大きく超え」ており、「Aの心理的負荷は、人生においてまれに経験することもある程度に強度のものということができ、一般人を基準として、社会通念上、客観的にみて、精神障害を発症させる程度に過重なものと評価するのが相当である」とし、業務起因性を認めました。国側も控訴せず、同地裁判決が確定しています。先の判断指針見直しにより、今後同種事案が発生した場合、労基署も業務起因性を認め、支給決定処分を行うことになるものと思われます。 

 当面、厳しい経済・雇用環境が続くことが予想される中、従来に増して上司と部下の関係が険悪化する危険性があります。このような中、上司の言動が「パワハラ」と捉えられないためにどのような配慮が必要か。企業に対して、極めて難しい問題が突きつけられています。少なくとも、上司に対する管理職教育において、部下とのコミュニケーションの取り方を取り入れること、そしてヘルプラインの設置・運用などが最低限、求められると考える次第です。

2009年3月21日土曜日

日本マクドナルド事件控訴審和解の報から思うこと

 先日、「名ばかり管理職」問題の端緒ともいえる日本マクドナルド事件が、控訴審において和解が成立した旨、報じられています(東京新聞)。労使双方ともに大変な事件であったと推察されるだけに、関係者にとって和解成立は本当に喜ばしいことと思います。

  しかしながら、同事件は労使利害関係者の手を離れ、社会的に大きな影響を与えた事案です。その見地から見ると、地裁判決に対する東京高裁判断が明らかとならなかった点は残念です。使用者側が和解に応じた点をみれば、東京高裁も地裁判決を維持する方向であったことが推察されるところではありますが、その理由付けが地裁判決と異なった可能性もあったのではないか個人的には考えております。

 いずれにしましても、同事件は収束しました。しかし、今なお同業他社あるいはその他業種含め、会社側が位置づける管理職と労基法上の管理監督者性の齟齬は多く残されたままです。当面、労基署が昨年発出した通達に基づく行政監督の形で、同問題が顕在化する可能性があり、企業実務担当者の着実な準備・検討が求められ続ける課題と思われます。

2009年3月17日火曜日

年次有給休暇の時間単位付与を考える(改正労基法)

 有休休暇の時間単位付与に関する労使協定締結の件でsosコラムに少しばかりコメントをいたしました。ご覧いただければ幸いです。

 ところでこの有休休暇の時間単位付与。仮に導入するとしても、細切れとなる有休休暇の時間単位申請をどのように管理するのか難問が残されています。紙台帳で管理しているのであれば、それぞれ記載をしていくことで足りるのでしょうが、多くの企業では年休もコンピュータで申請・承認・管理・賃金反映を一元的に行っているのではないでしょうか。その場合、この時間単位申請は既存の勤怠管理システムで対応は可能なのでしょうか。畑違いでよく分かりませんが、給与制度変更の際、システム部門と折衝を重ねた少しばかりの経験を思い出してみると、相当煩雑なシステム改編作業が予想されるところです。

 例えば所定労働時間が6時間、7時間、8時間の社員が混在する会社において、それぞれが1時間ごと年休の時間単位取得を複数回行ったとしましょう。システム上、それぞれの社員の残有給時間数が適切に管理されるか否かが問題となるものです。
 あるいは所定8時間のある社員が有給日数分を使いはたしてしまい、残っていた時間単位年休3時間分を取得するとして、賃金システム上、これが3時間分の有給取得⇒賃金支給までスムーズに対応できるでしょうか。今つらつら考えているだけで頭が痛くなる問題が幾つも湧き上がってくるものです。
 
 そのように考えると、来年4月施行とはいえ、この時間単位付与制度は当面導入するか否か先送りする企業が相当数出るものと思われます。その際はsosコラムで指摘した誠実団交応諾義務等の問題はご留意いただきたいところです。

2009年3月13日金曜日

マッコリのこと

 昨晩、M先生に韓国料理を御馳走になりましたが、その際、痛飲したのがマッコリなるお酒。白いお酒となると、「にごり酒」=美味しい=飲みすぎ=二日酔いの連立方程式が自然に脳裏をよぎり、おそるおそる飲んでおりました。
 マッコリはさっぱりとしていて、とても美味しいお酒です。キムチやホルモン焼きに大変、マッチします。特に昨夜のお店は緑茶、抹茶などの味をつけたマッコリを出しており、これもまた美味。ということで、いつも通り、よく飲んだ訳ですが、今朝は思いのほか頭がしゃきっとしております。
 これからはマッコリを愛飲しようかと思う今日この頃。近所の韓国料理屋を開拓せねばなりませんね。

2009年3月11日水曜日

ラーメン屋「きら星」のこと

 昨日、何気なくテレビを眺めておりましたら、いきつけのラーメン屋さんが出てきて、びっくりいたしました。その名は「きら星」。濃厚な豚骨スープに太い麺がうまく絡む、美味しいラーメンを出す店です。そこに梅宮辰夫先生ら5名の食の達人が試食の上、5人中3人が支持すれば認証されるというテレビ企画。残念ながら、きら星は認証されずじまいでしたが、店主の研究熱心ぶりは誰もが高く評価していました。
 よりよいものを創り出していくという気概は見習わなければならぬと思った次第。

2009年3月8日日曜日

改正労基法の代替休暇をめぐる法的問題(諮問案から)

 平成22年4月施行の改正労基法に関する施行規則案が、先日の労働政策審議会労働条件分科会において諮問されました(こちら)。今後、同審議会で審議の上、遅くとも4月~6月までには、改正労基法の施行規則および施行通達等が出そろう予定です。

 ここでは、先日示された施行規則案(諮問案)を通じて、新設される代替休暇をめぐる法的問題を考えてみたいと思います。

 昨年成立した改正労基法では、1か月について60時間を超えて時間外労働をさせた場合、割増賃金率が5割以上(従前に比して2割5分増し)に引き上げられる旨、法律で明記されました(改正労基法37条1項但書き) (改正労基法に関する厚労省資料はこちら)。
 これに合わせて新設されたのが、代替休暇制度です。改正労基法37条3項において、使用者が労使協定を定めることによって、先の引き上げ部分については割増賃金の支払いに代えて、休暇取得を付与することを許容しました。その目的としては、長時間労働に従事した社員を労動から解放し、その健康確保を図ることにあるものです。

 代替休暇制度の詳細については不明な点が多かったところ、先般示された施行規則案を見ることによって、若干ではありますが代替休暇の制度設計(案)が見えてくるところがあります。ここでは主に代替休暇の単位と、その付与期間を取り上げます。

 まず第1は代替休暇の単位です。同制度は60時間を超える時間に対して設けられるものであり、数字だけを見ると、例えば1か月あたり61時間の時間外労働が生じた場合、これに対応して15分の代替休暇を与えることも考えられなくもありません。しかしながら、15分などの短い時間で代替休暇を付与することは、労使双方のニーズが未知数の上、その運用が煩雑になる恐れもないとはいえません。

 そのためか、施行規則案(諮問)を見ると、労使協定において定める代替休暇の単位は1日又は半日とすることを求めています。従って、1か月あたりの時間外労働時間が76時間の場合は半日、同じく92時間の場合は1日を引き上げられた割増賃金分の支払いに代えて、代替休暇付与に替えることが可能です。では、仮にある月の時間外労働時間が75時間あるいは91時間の場合はどのように考えるべきでしょうか。先の施行規則案を前提とすれば、半日あるいは1日に満たない部分は、3時間あるいは7時間等の形で代償休暇を付与することはできず、原則どおり割増賃金支払いが求められることとなります(※なお使用者側が端数を切り上げて、半日あるいは1日単位で付与すること自体は当然可能)

 問題はこの代替休暇は当月の時間外労働時間数ごと付与しなければならないのか、あるいは一定期間、時間外労働時間数を通算した上で付与することが可能かどうかです。先のケースでいえば、例えば1月は75時間、2月は77時間の場合、2か月の総和(60時間超過分)は32時間となることから、これを3月に代替休暇「1日」として付与することが許されるか否かが問題となります。この点については、先の施行規則案からは定かではなく、その後示される施行通達等に委ねられることになりますが、私見では、次に示すとおり代償休暇の付与が2か月以内ということからも、最低2か月以内の通算は許容されてしかるべきと考えるものです。

 第2は付与期間(いつまで付与すればよいか)です。制度設計上、代替休暇の付与期間については特に規制を設けず、労使自治に委ねることも考えられるところですが、1点考慮すべき事項として、健康確保の問題があります。つまり同代替休暇の目的は前述のとおり、労働者の健康確保にあることから、長時間労働状態からなるべく早い段階で休暇を与えることが本来的要請であるということです。

 この見地からか、施行規則案においても、付与期間について労使協定への縛りを設けることが示されています。つまり「時間外労働が1か月について60時間を超えた当該1か月の末日の翌日から2か月以内とする」というものです。

 「2か月以内」という数字は先の趣旨から理解できるところでありますが、実はこの施行規則案には大きな問題があると考えています。それは、付与の始期です。先の施行規則案にはその始期が「1か月について60時間を超えた当該1か月の末日の翌月」とされています。つまり、60時間を超過した当月内における代替休暇の付与は認めないという取扱いになっているものです。

 最近の企業における勤怠管理システムの中には、人事部等が当該月内において逐次、各社員の時間外労働状況を把握し、適宜残業抑制等の指示を行っている例も少なくありません。例えばある月において、76時間の時間外労働が生じた日の翌週に、代替休暇を付与することも、これらの企業では何ら不可能ではなく、現に行っているものといえます。これを厚労省が「代替休暇の付与は労使でどのように考えようが当月中はダメです。翌月に代替休暇を付与してください」ということを、何故、労使合意を排斥する施行規則上のルールとしようとするのか、理解に苦しむところです。

 むしろ、当月中に代替休暇を取らせるインセンティブを高めることの方が、法の目的である「労働者の健康確保」の面から有益と考える次第です。今後の労働政策審議会における議論が注目されるところです。 

2009年3月4日水曜日

ダラダラ残業について考える③

「ダラダラ残業」は法律上の「労働時間」にあたるのか否か。

 よく酒場で話題にのぼるのが、この問題です。この問いに対しては、もう少し条件設定が必要です。
  ①上司等が明確な指示をなし、残業に行っているものの、その成果物の質・量が労働時間に比して低い場合
  ②上司等が明確な指示をしていないが仕事を続けており、その成果物の量・質が労働時間に比して低い場合

 まず①のケースについては、明確な指示があるため、労働時間性があることは法的に異論ないものです。仮に使用者側がその成果物やその過程に不満を有するのであれば、これに対して逐次、指示し、その改善を求め、なお問題が残る場合は懲戒処分等のステップを考えていくことになります(※懲戒処分の適法性には注意する要あり)。

 実は①のケースについては、ホワイトカラー正社員層において稀であり、むしろ次の②が大半です。これについては、よく「明確な指示」がないことをもって、「使用者の指揮命令下」にないので、労働時間にあたらないという見解が示されることがあります。

 しかしながら、多くのケース②では、上司が職場にいて、部下の所定時間外在社を「現認」しています。あるいは、その業務量を把握しているものです。これをもって「黙認」といいうるのか、そして事前ないし事後に上司から明確な指示がなくても、「黙示の指揮命令関係」が認められるか否かが問題となりえます。これについては、すでに裁判例の中でも黙示の指揮命令に基づく労働時間性を肯定した事案があります(ユニコンエンジニアリング事件・東京地裁平成16年6月25日労経速1882号3頁ほか)。

 このように現状の結論からいえば①、②いずれのケースも「労働時間性」が認められやすい状況にあります。しかしながら、使用者側から見ると、事前の許可なく会社に残り、しかも仕事をしているかしていないのか分からないものを何故、「労働時間」と把握し、時間外割増賃金を支払わなければならないのか腑に落ちないところがあると思われます。

 同問題のポイントとして、実は「休憩時間」の問題があります。次はダラダラ残業と休憩時間の関係を考えてみます。

2009年3月3日火曜日

ダラダラ残業について考える②

「何故、ダラダラ残業が生じるのか?」雑感

 ダラダラ残業は当然のことながら、法律用語ではありません。さしあたり定義をするとすれば、「労務提供の量・質が低い状態で、所定乃至法定時間を越えて在社し続けている状態」になると考えています。

 このようなダラダラ残業はおそらく、昔に比べれば激減したとはいえ、多くの職場において今なお見受けられるところではないでしょうか。では、このようなダラダラ残業は何故、あるのでしょうか。

 従業員が残業代ほしさでこのようなことをやっていると指摘する向きがありますが、従来はこれら在社に対して、残業代を請求する社員は稀でした(もちろん退職後に請求する例あり)。

 先日、紹介した大竹論文ではワーカーホリックになりやすい社員の特性に着目して、「後回し行動」傾向のある者が長時間労働に陥りやすいと指摘します。もちろん、そのような面もありますが、それだけともいえない気がいたします。

 何よりも職場、上司が所定時間後の在社にどのような評価を行っているのか、その点も大きな要因と思われるところです。例えば上司等が夜10時ぐらいに部下(もちろん午前9時出社のケース)が机でかりかり「何か」をしている姿を見て、どのようなに感じ、それをどのように表現しているのか。仮に「よしよし、よく頑張っている」と評価し、それが賞与等に反映されるのであれば、残業代が出ようが出まいが夜遅くまで在社すること自体が従業員の経済合理性にかなうことになります。

 このように考えると、最後は人事考課の問題に行きつくのかもしれません。人事考課制度は情意評価から成果評価へとシフトチェンジが進んできましたが、成果主義賃金制度に移行後も、なお情意評価の部分は残されてるケースが多いと思われます。その中で長時間在社をどのように評価していくべきか。ここがダラダラ残業問題を考える上で、実務的に大きなポイントになる気がしています。

2009年3月1日日曜日

ダラダラ残業について考える①

 最近、ダラダラ残業についての勉強を続けています。その中でつらつら考えていることを書き連ねてみたいと思います。
 
 昨年RIETI主催シンポジウムで阪大の大竹文雄先生のご講演を拝聴した際、ワーカーホリックに陥りやすいキャラクターを、小学校夏休みの宿題をどのようにこなしていたかという視点から分析するというお話を伺い、その発想のユニークさに驚嘆したことがあります。その発表では、宿題の後回し行動と男性のワーカーホリックに一定の相関関係があること、この結果を前提とすれば、残業に対する割増賃金増額の効果は乏しく、むしろ「つい残業をするということができないようなコミットメントメカニズムをつくることが必要である」と結論づけておられました。そのための「定時に仕事を強制的に終わらせるメカニズム」として、具体的には、職場に残ることを不可能とする、強制的に休みを取らせることとする等を挙げておられます(詳細については上記シンポジウム配布資料)。

 畑違いの私には正直よく分かりませんが、その結論は一定の共感を覚えました。もちろん使用者側が過重・過大な業務を命じ、それが原因で長時間労働に陥らざるを得ないケースが多いことも否定しません。しかしながら、周りを見渡すと、さほど過重・過大な業務が命じられていないにもかかわらず、長時間労働の状態にある男性中高年社員が散見されることも否定できないところではないでしょうか。私もよく企業の人事担当者から、ご相談を頂くのが、「何故か帰らない社員の長時間在社」の問題です。

 大竹先生が言うところの「定時に仕事を強制的に終わらせるメカニズム」をどのように構築していくのかは、労働経済学者の仕事というより、むしろ企業人事労務の実務家である担当者、社労士がまさに考えるべき課題ではないかと感じております。現場の知恵を活かし、問題解決に取り組むべき課題です。